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特集 放熱技術
もくじ
最近の放熱技術について
新しい放熱設計へのヒントを得るには?
特許情報の向こうに見える知恵を探る
1.出願および権利発生状況
2.最近の注目パテント
3.放熱技術のメインストリーム
4.これからの放熱技術は、何をねらいにするか?
5.これからの放熱技術はどこに目をつければよいか?
あとがき
株式会社ネオテクノロジー出版の放熱関連図書へ
最近の放熱技術について
 一般的にいえば電子機器の放熱を考える際に、技術者は、熱の発生源となる電子部品と、そこから生じた熱を外部に逃すためのヒートシンクやファンなどの放熱ツールに着目するのが通常です。
 そこでは、回路基板上での電子部品のレイアウトや、許容温度(ジャンクション温度など)に対応した外部ヒートシンクやファンの取り付け構造などが主な着目点になります。従来は、回路設計や部品選定が粗かた固まったのち、筐体設計を含めた機構設計の中で放熱技術に取り組まれる場合が多かったと思います。放熱設計は、いわば黒子役であり、回路設計と放熱設計は主従の関係にあったとも言うことができるでしょう。

 しかし、最近の携帯電話やパソコンの例に限らず高密度実装が、商品の差別化と高機能化を図るうえで重要な設計要素になってくると、いままでの主従の関係にたよっているだけではニーズに対応ができなくなってきています。もはや、回路設計の後で熱対策を講じるという昔流のやり方では事が済まず、開発段階から放熱技術を積極的に設計に盛り込む必要がでてきています。
 コンパクト化や低生産コスト化を意識した最適化設計の一手法としてトータルにモノを見る放熱技術が求められているのです。いままで通りの放熱対策を勘と経験によって切り貼りする放熱技術から、シュミレーションを駆使したオプティマムデザインへと、放熱技術の変質が要求されているのです。

 この表れの1つが、放熱技術に関する部品メーカーとセットメーカーのボーダレス化であり、部品の放熱技術と基板の放熱技術、筐体の放熱技術のボーダレス化として生じているようにも思われるのです。
新しい放熱設計へのヒントを得るには
 まず、特許情報に目を向けてみましょう!
 特許情報の中には、技術者のさまざまな着想や知恵が散りばめられています。他人から見れば単なる一枚の紙切れでしかないものが、日々新たな放熱設計への挑戦をしているエンジニアにとっては宝の山でもあるのです。では、特許情報に目を向けるとどのようなメリットがあるのか挙げてみましょう。

放熱技術に関する特許情報のメリット
1)放熱技術を知ることができる
放熱技術を自社の大切な技術成果だと考える企業が一件の出願について、数十万円の費用と貴重な人手、時間をかけ、先を争うように自社の発明を発表する情報です。→その企業にとって出願の価値があり"と判断した重要な技術を知ることができます。

2)放熱技術だけを取り上げた学会誌や月刊誌はない。
→特許情報には、年間500件以上も、さまざまな電子機器の放熱技術が発表されます。それを見ておけば、放熱技術の現状がよくわかるでしょう。

3)特許情報には、一定の書式スタイルが決められており、項目に分けて発明の技術的内容が詳しく説明されている。
発明の背景は何か、どこに問題があったのか、発明者のねらい(目的/効果)は何か、どこに目をつけて、どうしたのかが項目に分けて書かれています。発明者が工夫するポイントは、一言でいえば、「何をねらって、どこに目をつけたか」であるということもできます。
特許情報を探ることにより、技術者が放熱技術を考える時に「何をねらうか」、そして、「どこに目をつけるか」という重要ポイントをつかむことができるのです。

4)放熱技術の特許情報には、必ずといってよいほど図がついている。
図を見るだけで、新たな発明や着想を生み出すヒントが得られます。想像力を活かすために、抽象的な図の方が便利な場合もあります。時として、間違って発明を理解しても何ら差し支えはありません。かえって、誤解が新たな発明のキッカケになることはよくあることです。
5)特許情報はパソコンがあればインターネットで簡単に調べることができる。
特許庁の特許電子図書館のホームページ(http://www.ipdl.jpo-miti.go.jp/)では、特許情報を無料でみることができます。また、米国特許をみるためには、米国の特許商標庁のホームページ(http://www.uspto.gov/)も役に立つでしょう。
特許情報の向こうに見える知恵を探る
 ここでは、比較的新しい放熱技術と薄型実装に関する特許情報を見てみましょう。主として1995年以降に特許出願された特許情報を材料にして、そこに散りばめられている先輩や同業他社の工夫の成果を探り、それを活用して新たな放熱設計への挑戦の糧にする工夫を考えてみたいと思います。

1.出願および権利発生状況

 図1は、最近10年間の放熱技術に関する出願件数と権利発生件数の推移を示したグラフです。ここで取り上げた特許データは、放熱技術を対象とする国際特許分類(IPC)H05K7/20「冷却、換気または加熱を容易にするための変形」に限っています。
 IPC(国際特許分類)とは、図書館に図書分類があるのと同じように、特許情報にも、内容に応じて分類した世界共通の記号がついているものです。放熱技術に関しては、H05K7/20が便利です。なお、電子部品レベルでの放熱になると、このほかにH01L23/36も役に立つ分類と言えるでしょう。
図1
図1 最近の10年間の放熱技術に関する出願件数、権利発生件数の推移(IPC:H05K7/20)
図1のグラフからは、最近の放熱技術に関する特許事情の様変わりとして、次のような注目すべきいくつかのポイントが浮かび上がってきます。

1)放熱技術に関する特許出願の件数が急増している点に注目してみたい
 特に、最近3年間の延びは20%を超えるものがあり、長引く不況期を考えると、極めて特徴的だと言えるでしょう。

2)特許権の成立件数が増えている点にも注目したい
 地味な技術であり、古くからある縁の下の技術といわれながら、実際には、毎年100件以上もの特許権が新たに生まれていることが分かります。特許権を得るためには、新規性と進歩性という2段のハードルを越える必要があるというのは周知の事実ですが、こうしてみると、放熱技術にはまだまだ工夫の余地が充分に残されているということになります。

3)実用新案の零落
 一昔前は、放熱技術は実用新案を見ると言われていました。今や、実用新案は急減し、数十件になって見る影もありません。
2.最近の注目パテント
 特許情報をみると、「何をねらっているのか」「どこに目をつけたか」が分かります。ねらいと目の付け所がはっきりすれば、あとは「どうするか」であり、ここは技術者一人ひとりの経験と腕の発揮場所になるでしょう。ここでは、最近に発表された公報を例にとり、ねらいと目の付け所を探ってみたいと思います。

(1)特許3008942(日本電気)
[注目ポイント]
 1998年11月20日に出願され、翌1999年12月3日には早くも登録になっている点に先ず注目します。今までは、出願から1年半の間は秘密に保たれ、公開されないのが普通でした。しかし、最近は早期審査が進み、公開されるよりも前に権利が成立する場合がみられるようになってきました。この場合、公開公報より先に特許公報が発行されることになるのですが、最近はこのようなケースも少なくありません。

[技術的ポイント]
 発明者がねらったのは、放熱ヒートシンクからのノイズ放射を抑えることによって厳しさを増しつつある電磁波ノイズ規制をクリアすることであり、目をつけたのは、ヒートシンクの寸法(長さ)です。従来、ヒートシンクを取り付ける場合、電磁波ノイズを発生することにまでは気を配らず、放熱性だけを考えてヒートシンクの寸法を決めていました。この発明では、クロック周波数と、その高調波の1/2波長に一致させないようにする工夫を生み出しています。最近の傾向の一つは、放熱設計が、単に発熱部品の熱対策というだけでとどまっていない点にあります。この例のように、電磁波ノイズ対策など、放熱以外の他の要素と放熱構造が複雑に絡み合っている中で、効果的な放熱を実現するためのいろいろな工夫を加えている点に最近の特徴があると言えるでしょう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 高周波信号を出力する電子素子の上蓋に
放熱板を設け、該放熱板の放熱部より放熱して、
電子素子の発熱を放出するようにした
電子装置の放熱構造において、前記放熱板の寸法が、
前記電子素子で出力する信号周波数、
あるいは、その高調波周波数の1/2波長長さと
一致しないように、設定されていることを
特徴とする電子装置の放熱構造。
図2
図2
(2)特許3014371(三菱電機)
[注目ポイント]

 この例も、1998年9月1日に出願され、翌1999年12月には登録になっています。先の例と同様に、公開される前に特許権が認められています。

[技術的ポイント]
 ノートパソコンのような携帯モバイル機器では、薄型やスペースの制限から十分な能力のファンやヒートシンクを用いることが困難です。この発明のねらいは、薄型化の実現にあります。そこで、ファンに目をつけ、CPUなどの部品よりも薄いファンを用います。また、プリント基板とファンハウジングとの隙間に空気吸込口を設けるという工夫をしました。この工夫をさらに発展させ、ファンハウジングと一体化したヒートスプレッダを考えます。つまり、ヒートスプレッダを空気流路のダクトに使うだけでなく、同時に放熱板の役割をも兼ねさせてしまうという工夫です。
図3_1
図3_2
図3_3
図3
(3)P3012867(IBM)

[注目ポイント]
 ワールドワイドの企業IBMらしく、特許権はIBM(USA)が持つものの、発明したのはフランス人であり、最初の出願はヨーロッパ特許庁に対して行なっています。我が国の企業の中にも、特許を世界市場戦略の一環に組み込んでいる例が増えつつあるのも事実です。
世界を市場とする21世紀の商品戦略や事業戦略に対応したこれからのあり方を示唆する一例でもあるでしょう。

[技術的ポイント]
 ねらいは、コンピュータの電磁波ノイズ規格への対応です。目をつけているのもヒートシンクであり、先のNECの発明がヒートシンクと電磁波ノイズの係わりに目をつけているのと同じと言えます。ヒートシンクがCPUの電磁波を吸収して再放出するノイズ源だという点で、両方の出発点はよく似ています。
 ところが構造的には、この発明ではヒートシンクを接続ピンで直接にグランド接地面に接続しています。ただし、ピンの数を最大高調波の波長に依存させています。
 例えば、ピンの間隔を波長の1/10以下にします。NECのケースではヒートシンクの寸法(長さ)を1/2波長にさせないようにしますが、それと対比すれば、技術者のモノの見方が多様であることが分かるでしょう。ねらいや目の付け所が同じであっても、技術者によって、それぞれの個性や考え方で、いろいろな角度から攻めることができるという典型例です。
図4
符号の説明
20 マイクロプロセッサ 28 ピン
22 プリント回路板 30 ピン
24 ヒートシンク 32 ピン
26 フィン 34 接地面
図4
(4)米国特許 6,028,355(AT&T)

[注目ポイント]
 我が国では、電子機器の高密度実装と薄型化に対応して、放熱技術がいろいろな細かな工夫を数多く生み出しているのに対して、大胆で独創的な技術を生んできた米国での放熱技術の現状はどうなのでしょうか。このAT&Tの例は、今まで見慣れてきた放熱構造にも、まだ盲点があるという一例として取り上げました。ちなみに、この発明は、米国で1998年6月16日に出願されており、2000年2月22日には米国特許権が生まれています。

[技術的ポイント]
 高密度実装がこれだけ進んでくると、プリント基板で発生する熱は、ケースの内部に放出するだけでは間に合わなくなってきます。また、個々のICやプリント基板に合わせて、ヒートシンクをケースバイケースで設計するとなると低価格での実現は困難と言えます。この発明のねらいは、標準化による低コスト化の実現です。そして、目を付けたのは多層プリント基板とヒートシンクの取付構造です。図のように、ケースを貫通するヒートシンク構造をとることで、ファンなどを用いずに、ケースの内部の熱を効率よく外に出すことができます。これにより、ヒートシンクを含めた放熱設計を標準化でき、プリント基板の設計や取付構造に悪影響を与えずにカスタムにも対応できるとします。
図5
What is claimed is:
1. An apparatus, comprising:
a housing enclosing a multi-layer printed wiring board;
a mounting heat sink fitted through the housing
and contacting the multi-layer printed wiring board;
the mounting heat sink dissipates heat from the printed wiring board
and is used for mounting the printed wiring board; and
an integrated circuit component defined on the multi-layer printed wiring board.
図5
3.放熱技術のメインストリーム
 特許情報を活用するにしても、そのベースはあくまでも技術そのものにあります。電子機器の放熱技術は、熱伝導(熱伝達)、対流、輻射という熱の三原則に尺度を合わせるだけだと古典的な手法の枠組みに従うしかなく、逃げ道はありません。
 それだけに、1950年頃から半世紀の放熱技術の歩みを振りかえって見ると、他の電子技術の変わりようと比較して、大きな変革は見られないのです。すなわち、数十年間、同じツールが使われているといっても過言ではないでしょう。どちらかというと地味な技術が長年にわたって蓄積されたかのように思われます。
 図6は、ここ半世紀の放熱技術の主な変遷を示した表です。ここから、放熱技術の変遷には次のような特徴が読みとれます。

1)今だに取り組まれている技術であり、放熱のツールにも大きな変革はない
→10年程度のスパンでは、簡単には変わらない技術だと言えます。

2)1980年の後半から急激に進んだ表面実装SMTが、今まで裏方技術であった放熱技術を表舞台に押し上げている
→スイッチング電源を例にとれば、電源自体のヒートシンクで済んでいたものが、最近では、ユーザ側と共同で放熱する方向へと変わってきています。

3)部品レベルでの技術から、システムレベルでの技術へと変質しているように、放熱技術もソフト化する。
→ハード設計を中心にした部品レイアウトやヒートシンク設計の時代から、放熱設計のデータベース蓄積やシミュレーションモデルを活用した設計へと変革しています。
図6 半世紀の放熱技術の主な変遷
年代 メルクマール 粗い傾向 主な放熱ツール スイッチング電源を例に取れば…
1950年代
(昭25)
真空管の時代 戦後復興・国産品愛用 マイカ(雲母)
1690年代
(昭35)
トランジスタの時代 部品レベルでの
イノベーション
シリコーングリース スイッチング電源の原形
1970年代
(昭45)
IC/LSIの時代 部品レベルでの
インテグレーション
(ハイブリッドICなど)
熱伝導シート 放熱フィン付き
標準スイッチング電源の出現
1980年代
(昭55)
チップ部品化と
表面実装の時代
SMTリードレス部品と
自動実装へ
BN、AlN放熱材料、
メタル基板、
ヒートパイプの利用
薄型モジュール電源の出現。
部品メーカ側での放熱対策から、
ユーザ側と放熱対策を分担する方向へ
1990年代
(平2)
部品レベルから
システム展開へ
大型化と小型分散化の2極分化
2000年代
(平12)
PCと光通信ネットワーク、
インターネットの時代
電源単体技術から
分散系システム技術への変質
2010年代
(平22)
4.これからの放熱技術は、何をねらいにするか?

 1990年代の表面実装技術(SMT)は、それまでの放熱技術に大きな変革をもたらしました。電子部品のリードがなくなることによって、先ず、プリント基板の穴にリード線を差し込むという面倒な作業が不要になります。

 リード線のハンダ付け性やキンク(曲がり)、あるいはリードのフォーミングなどという厄介な問題も消えるのです。それまでは、外注先などでパート作業者が手差ししていた部品実装作業は、チップ部品化した電子部品を基板表面に単に並べるだけという単純な作業になって、実装の自動化と高精度化が図られるようになっています。

 その結果、実装密度が高まり、ファインパターンも使えるようになります。それが、新たな電子部品のリードレス化と、チップ部品のさらなる小型化のドライブになります。こうしてコンデンサや抵抗器からリードレス化が始まったことによって、半導体はもちろんのこと、インダクタ部品までもが表面実装化しています。

 その結果、リフロー法によるハンダ付けが可能になり、ハンダによるパターンへのセルフアライメント効果なども生きてくるのです。このように考えて見ると、SMTは、我が国電子産業の一大変革を産んだきわめて大きな変革要素であることに気がつくでしょう。

 このように、プリント基板に穴を開けなくてすむということは直接にコストダウンにつながるのですが、その分だけ配線スペースや部品搭載エリアを広く取ることができます。その空いたスペースの分に、電子機器の高機能化、高性能化に対応する回路を組み込むことができ、間接的に機能充実が図れるのです。こうして、コストダウンと高性能化が同時に並行して実現できています。

 ある量の特許情報を分析してみると、それがある程度のまとまったデータ量であることが重要ではありますが、客観的な傾向を抜き出すことができます。ここでは、1995年以後の比較的最近の出願に限定して、放熱技術に関する特許情報から、発明がねらっている効果(ねらい)を拾い上げてみましょう。

図7は、放熱技術に関する最近の特許情報から発明のねらいを抜き出し、それぞれのねらいの上下関係を関連付けて示した特許マップです。なお、この特許マップでは、個々の発明者がどのような観点でねらいをとらえたのか、「熱としての観点でとらえた」
「機構としての観点でとらえた」「電気特性としての観点でとらえた」というように、大きな観点別にカテゴリーに分けて並べています。そして、具体的な構成(構造)レベルに近い最下位のねらいを図の左側に配置しました。また、願望レベルに近い上位のねらいを右側に配置してあります。なお、実際の明細書では、ここで言う「ねらい」は、【発明が解決しようとする課題】の欄か、【発明の効果】の欄に記されている場合が多いということを付け加えておきます。

さて、図7に示す発明のねらいを並べた特許マップからは、次のようなことが見えてきます。

1)最終的にはどのねらいも、生産性の向上、低コストの実現、高い信頼性、操作性の改善、保守性に帰結する。
→生産性と低コスト化は、実質的に共通するものであるとすれば、「安くて、壊れず、使いやすい」というのが大方の技術者が
ねらっているゴールであるということになります。

2)熱としての観点でとらえたねらいは、結果的に小型化、高信頼化につながっている。
→ここで取り上げた特許情報は、いずれも、放熱技術に関するものです。こうしてみると、放熱技術の大半は機構設計と密接不可分であり、大部分が、機械的な構造設計に結びついていることが分かります。

3)注目される最近のねらいの一つに、操作性、特にシステム構築や拡張に対する柔軟性があげられる。
→ちょうど、1990年代から以降、技術は単体部品の内部に目をつけるこれまでの行き方に加えて、システム展開するように部品の外側へと目を向ける行き方が生まれています。今後も、モジュール化と分散化が進につれ、この傾向はいっそう強まるように思われます。例えば、ボード上に分散配置した場合の重量バランスや振動モード、あるいは、EMCを含めた電源ラインの安定性などが対象になるでしょう。
図7
 特許マップにはさまざまな形態があります。ここで示す図7の特許マップも、特許情報に基づいて発明のねらいを分析した特許マップの一種です。この特許マップで注目すべき点は、ねらいの関連を右から左へと、矢印とは反対方向に溯って見てましょう。

 すると、抽象的な課題から具体的な課題へと、思考をブレークダウンすることができる点にあります。例えば、低コスト化を考える場合には、どのような見方で低コスト化に取り組めばよいのか、その指標が得られるのです。

 こうして、あるねらいを実現するためのいく通りかの筋道が整理されて示されれば、そのあとの具体的な実現手段は技術者が解決できます。この特許マップは、過去の発明の変遷を時系列的に並べた歴史年表的な特許マップとは異なり、技術者が問題整理を行なう上で参考になり、発明着想へのヒントの投げかけを得るための特許マップなのです。

 特許情報は、一点一点の発明を子細に調べることも時には必要なことですが、多くの技術者がいろいろな観点で考え出した膨大な知的成果が蓄積された宝庫でもあります。しかも、量が豊富にあり、キーワードによる検索や特許分類記号に馴れれば、大量な特許情報から必要なものを簡単に抜き出すことも可能です。この貴重な技術的蓄積を上手に利用すれば、今までにない知的な技術情報のリソースを手に入れることができるでしょう
5.これからの放熱技術はどこに目をつければよいか?

 図8は、1995年以降に公開された最近の放熱技術に関する特許情報に基づいて、個々の発明者が放熱構造のどこに目を付けたのか、どのような構成(構造)に着目したのかを抽出した表の一部です。なお、この表では、放熱技術全般にまで抽出対象を広げると、大型計算機や放送機器などのようなラックマウント設備の強制空冷や液冷などまでが含まれてくるので、ここでは、電子機器に一般的に使われる薄型実装の放熱技術に対象を絞っています。

 その結果、最近の薄型実装を前提とする大半の放熱技術者は、
1)ケースに目をつける
2)プリント基板などに目をつける
3)これら以外に少し異なる観点もある
という順になります。

 もちろん、これらのケースや基板との関連で、ヒートシンクや熱伝導性材料、あるいは、実装方法などが関連付けられているのは言うまでもありません。図9〜図11には、ケースに目をつけた代表例、プリント基板などに目をつけた代表例、これら以外の少し異なる観点の代表例を挙げておきます。
図8
図9
図9 ケースの観点からみた工夫の例
図10
図11
あとがき
 ここでは、電子機器の放熱設計と実装技術について、最近の特許情報に基づいて注目されるいくつかの動きを取り上げました。用いた特許データは、1995年以降に出願された比較的新しい発明だけを対象にしています。
 その結果、今までは成熟した進歩の遅い地味な技術であると考えられていた放熱技術が、実は、表面実装技術による薄型実装化の普及によって、電子機器にとっては極めて重要なキー技術に変わりつつあることが分かります。それとともに、各社の放熱技術に関心を持つ技術者が、日々精力的に新たな工夫に挑戦していることも知ることができました。特許情報は、一点一点をていねいに読むことも大事ですが、ある程度まとまった量の特許情報を一群として読むことも重要です。そして、技術者が自分の考え(仮説)を持ったうえで多くの特許情報に触れることで、自分なりの考え方を多観点から検証し、新たな着想をつかむことが可能となります。特許情報は、今までは権利側面が重視され、侵害を防ぐという後向きの情報源として利用されていました。それを、技術者のための技術情報として利用すれば、知的好奇心を適度に刺激する格好な技術資料になるのです。また、品質管理手法を設計審査や標準設計、あるいは標準作業化という形で技術・設計に盛り込むことによって、世界No.1の品質を実現したのと同じように、特許情報で蓄積されたいろいろな手法を実際の技術開発に活用し、創造を通じて世界No.1を目指すことも考えられるでしょう。情報の検索手法や特許マップを用いた技術分析、継続的な技術動向の監視など、さまざまな特許情報の分析は、もっと技術者が乗り込んで工夫を加える余地があり、実戦的に活用できるようにすることが可能な未開拓な分野です。最近、知的情報リソースとして、特許情報は企業戦略情報の価値が企画部門や営業部門に認識され始めています。同時に、創造性を喚起する技術情報として、技術者が新たなヒントを生み出すキッカケ情報として、特許情報の価値が再認識されつつあるのも事実です。
1)楽しく読む
2)毎月読む
3)興味のある分野の動きを読む
4)そして、ちょっとした思い付きでも、必ずメモ書きを残しておく

このように特許情報をみてみると、
技術者一人ひとりに創造的挑戦への勇気が沸いてくる
ことでしょう。

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