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中島 隆 新連載 |
特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングのすすめ 第15回】特許情報をどう加工して利用するか −技術者の目で特許の価値を考えてみよう@− <引用文献とフリーゾーンマップ> 春の息吹を感じる季節になった。桜花ばかりでなく、こぶしの蕾のふくらみや、紫陽花の枯れ枝の先からのぞく新芽までもが、春の歓びを告げている。 |
特許の引用文献はフリーゾーンの原点 ここに一つのDVD特許がある。米国特許5,459,712号(東芝)は、1994年1月と3月に出願された2件の国内特許出願を基礎にして米国に1994年9月に出願され、1995年10月に米国で特許になった発明である(図2)。 |
当時、MPEG(Moving Picture ImageCoding Experts Group)などの画像デジタル信号処理技術の急速な進歩の中で、VTRやレーザディスクの代わりにCDと同じ寸法で2時間の動画を録画したいという期待が高まっていた。 これに対して、半導体レーザの波長を当時最先端の赤色にしたとしても、それだけでは、2時間番組を録画するためにCDの5倍の容量が必要になる。この発明は、高密度記録と大容量化のボトルネックを切り開く画期的な発明であり、光ディスクに形成するトラックピッチと台形のピット形状を、レーザ光の波長λと光ピックアップに用いられる対物レンズの開口数NAの比(λ/NA)の一定係数範囲にすることによって、隣接トラック間のクロストークを−20dB以下に抑えることができる。そして、再生信号からオリジナルの情報を取り出し、トラッキング制御に必要な良質なプッシュプル信号を得ることができ、高密度な記録を実現する。 さて、米国特許のフロントページ(表紙)にはReferences Citedという欄が設けられている。審査に用いた引用文献とでも訳せるだろうか。米国特許商標庁の審査官が審査で引用した先行米国特許だけに限らず、海外特許文献や学会レポート類の他の出版物も引用されたものが記載される。これは米国特許の優れている点の一つであるが、一件の特許審査ごとに引用した特許文献や論文などを記録に残している。こうしておくと、過去にどの先行特許文献や、どの論文が審査に頻繁に利用されたか、その多寡を調べることができる。 引用頻度の高い先行特許文献は影響範囲が広い発明であり、原理的で影響の大きな重要発明だといえるだろう。ちょうどノーベル賞で科学技術文献の引用回数大小が評価されているのと同じである。米国特許に記載されているCited記録は、技術文献として特許情報の利用価値をキチンと捉えているよい例であり、米国での特許制度の歴史を感じさせる。なお、特許データベースの中には、cited情報やciting情報だけを検索することができるものもある。 話を戻して、先のDVDのピット形状に関する米国特許5,459,712号(東芝)の例では、5件の米国特許がcited情報としてリストアップされている。 特許になった新しいものから順に遡れば、5,274,623(1990.7.富士写真フイルム)、5,107,486(1985.12.シャープ)、5,060,223(1988.8.リコー)、4,734,904(1984.5.松下電器産業)、4,487,648(1982.8.東芝)の5件である。なお、カッコ内の年月は優先権の基礎になった日本出願日を記してみた。 DVD技術でのわが国企業の優位性を如実に示しており、審査に引用されたすべての先行特許文献が日本企業による米国特許である。こうしてみると、論文の引用回数で見ると、わが国の評判は好ましくないが、米国特許で見れば、わが国の特許情報は海外でも頻繁に引用されているケースが多いのかもしれない。 5,274,623(富士写真フイルム)は断面図で見ると先の米国特許5,459,712号(東芝)とよく似ているように思われるが、プレグルーブとプレピットに染料色素(ダイ)層を設けた記録媒体であり、当然であるがまったく異なっている(図3)。 |
また、5,107,486(シャープ)はグルーブセクションとピットセクションとで検出信号に含まれるDC成分の違いをなくすためにグループの幅と深さをW1、d1、ピットの幅と深さをW2、d2を規定したものである(図4)。 |
さらに、5,060,223(リコー)はトラッキング制御を確実にするために、ガイドグルーブの間にプリフォーマットされるピットのピッチと深さを波長λと屈折率nの比λ/nで定めるものである(図5)。 |
4,734,904(松下電器産業)は記録再生両用ディスクと再生専用ディスクとを認識できるようにプリグルーブの深さ(高さ)を異なるようにするものである(図6)。 |
4,487,648(東芝)はトラッキング制御を確実にしてコード情報を確実に読み出すために、トラッキングガイドの方向に沿ってフォーマットセグメントを設け、このセグメント間にフラットな光反射領域を設けるものである(図7)。 |
ここから学ぶこと いま注目されている大きな技術の一つにDVDがある。ピット形状に関する米国特許5,459,712号(東芝)を例に、引用されている先行特許を見てみた。引用特許文献の中には、まさに元気盛りの特許権もあれば、すでに寿命が尽きようとしているものもある。そこには、いまのDVDに至る大きな技術の潮流を見ることができるだろう。 DVDは、ここ数年に市場の急拡大が見込まれる金の卵である。様々な用途に需要が伸び、CDを駆逐していくだろうし、そこには技術者の知恵と力の発揮どころが前途洋洋なオープンシーとして広がるはずである。 同時に、特許ライセンシングの話が新聞紙上をにぎわせているように、DVDは各社の新旧特許に囲まれている。基本的で概念の大きな基本的発明の上に新たな改良が加えられ、基本パテントが枯れるとともに、新たなパテントが権利の芽を伸ばす。新旧の技術が混在し、そこで生まれた特許権にも栄枯盛衰がある。 実は、ここがフリーゾーンマップの原点である。枯れた特許の上に新しい技術が生まれる。だから、特許を取得できるゾーンでは、特許出願を重視する必要がある。しかし、先行文献がたくさんあって、普通のレベルでは出願しても特許を取得できないゾーンだとうことがわかっていれば、そんなゾーンには特許出願をする必要がない。これがフリーゾーンマップの原点である。次回以後、次のようなことを考えてみよう。 @ フリーゾーンマップとはどういうものであれば良いのか A フリーゾーンマップによれば何が得られるのか B これからフリーゾーンマップに加えるべき改善課題は何か |
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