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中島 隆 新連載
特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングのすすめ
【第9回】特許情報をどう加工して利用するか 
     −明細書から切り出した言葉を活用しようB−
     <上級編:チエを使って戦略的パテントを創出する>
 

快い感動とともにワールドカップサッカーの幕が閉じた。サッカーは戦略が光る団体スポーツである。防御部隊(DF)、中盤の戦略を定める司令塔(MF)、攻撃部隊(FW)と、有機的にボールをつなぐ。選手の持ち味をフルに活かし、それでいて統率の取れたチームプレイによってゴールを勝ち取るスポーツである。

高成長が失われたいま、企業では他社と同じことをやっていては生き残れず、高付加価値商品を生み出していかなければならない。いま、私たちはモノづくり社会からチエづくり社会への変革期に直面している。産業構造の改革、選択と集中、自助・自立などと、多くのスローガンがあふれているが、要は、「どうしたいのか」である。

そこで私たちは、膨大な特許情報を体系分析した大規模なソフトウェアTRIZではなく、自分が関心ある特許情報を使って戦略的パテントを創出する『IT+ヒューマン』手法SPC"Strategic Patent Creation"を提唱する。ロシアで生まれてアメリカで育ったTRIZは問題解決型であるのに対して、私たちが育てているパテント創出手法SPCは技術者の人智を優先する問題提起型の支援ツールなのである。

このSPCでは高額なソフトは必要ない。誰にでもできる。一人でもグループでもよい。技術者が自分のチエ"人智"を使えば、自分なりの知的創造を楽しめる。自分に関心ある最新の特許情報を利用する点も利点である。あとは技術者が価値アリと思う特許情報を自分のチエの力で有機的につなぎ、イマジネーションと創造力を活かして戦略的パテントを創出する。

いまはそんなチエづくりの時代になっているのではないか。勝つための凄まじい執念と同時に、戦略的にチエの勝負を挑む優れたバランス感覚が求められる時代なのである


技術者×知財スタッフ=最強のフォーメーション


自社の得意技術を活かして発明を生み、市場を睨んで商品開発に取り組む技術者。競合他社の動向を特許側面で探り、社内で生まれた発明を自社に優位な権利に仕上げる知財スタッフ。この両者の共同作戦によって自社の技術力を知的財産に価値変換し、高付加価値な戦略的パテントを生み出すのである。

@特許情報を活用した情報の共有化

戦略には相手がある。技術戦略や特許戦略にも当然に相手がある。技術者が「私たちの企業はどこに位置しており、これからどこに行こうとするのか」と考える場合、競争相手との対峙関係を忘れるわけにはいかない。自分たちの得意な技術分野はもちろん、同時に、競争相手が得意とする技術分野もつかんでおく。そうすれば、技術であれ、特許であれ、対応が場当たり的ではなくなり、戦略を優位に立てることができる。

このような戦略を持った独創的な商品づくりには、技術者と知財スタッフの共同作業が欠かせない。戦略は情報が要である。技術者と知財スタッフとの情報の共有が、絶対に必要である。共有すべき情報としては、自社はどんな技術が優れており、競争相手はどんな技術を欲しがるかという情報が一級の情報になる。自社の強味でライバルを脅せるような、この両方の要件を備えた情報は超一級である(図1)。


全体傭職マップは、特許情報を技術者の視点で整理したものである。どの技術が重要か、ライバルはどこか、などを大まかに把握することができる。技術者が直感的に割り付けるので、"こうしたい"という自己主張が表れたロードマップとしての役割も持つ。このマップは、技術者と知財スタッフが、互いの専門性を活かしながらチームワークを展開する上で、概念的に技術の全体像を俯瞰でき、状況を共有して把握しやすい、便利なマップである(図2)。




A重要技術ゾーンをつかむ

言うまでもなく"己を知ること"は、戦略の基本である。技術戦略や特許戦略でも、自社の独自性や強みを明確に把握しておくことが何よりも大事である。

ここで土台になるのが工程基準表である。信号制御の場合ならタイムチャートを考えればわかりやすい。工程を表形式に整理し、その上に自他の特許を記入する。工程を追うことによって、モノづくりに欠かせない自社の得意分野や、競合他社との強弱関係を漏れなく把握できる。材料の仕込みや生産の段取り、ジグや待ち時間などのような生産管理に関わる工夫も見落とさず、ビジネス方法の観点でチェックができる。

特に注目すべきなのが、繰り返して使われる共通的な要素や、生産工程や信号情報の前後関係である。工程基準表の中で工程を追って要素ごとに色分けすると、共通、または、回避できない必須のゾーンが一目瞭然に浮かび上がる(図3)。こうなると、工程基準表は重要ゾーンを示す権利強化シートへと変わるのである。



Bパイロット作業/WHG座標軸の設定

具体的な製品や設計から技術を捉えるのではなく、モノや工法を構成している要素(構成要素)や、その要素に求められている作用(機能・はたらき)という面で技術を分解し、整理しておくのがよい。これをパイロット作業として、構成や作用の座標軸を用意しておくと、後の本格作業で、自他の技術を共通の座標の上に並べて比較することができる。

ここで、この連載で取り上げている発明の3つの観点セット、(@)発明の目的【GOAL】、(A)目の付けどころ【WHAT】、(B)どのような働きをさせようとしているのか【HOW】を活用する。明細書から文章を切り出し、切り出した文章から言葉を抜き出す。こうした作業を行うことで、知財スタッフも営業マン程度に技術内容を理解できるようになり、競合他社の動向や顧客の状況を把握できるようになる。

自他の技術を客観的に把握する上で、構成要素を上位・下位の体系に関連付けて整理しておくとわかりやすい。上位は概念的であり、下位は具体的になる。技術的な機能(作用・はたらき)も、同様に上下の体系に整理しておく。このように構成要素と機能の二次元マトリクスとして技術のドメインを整理しておく。

パイロット作業は、競合各社の関心事項を知るために、せいぜい直近数ヵ月間の最新特許情報を用いればよい。特許情報を用いると、場合によっては数百人もの大勢の発明者の多様な観点で技術を見直すことにつながり、自社技術をリファインする上で格好な勉強材料になる。また、さまざまな観点を体系的に整理しておくと物事を考える上で大事な座標軸を得ることになる(図4)。

相手に勝つ権利を仕立てあげるのが知財明を生み出させるため、座標づくりから自他の技術ドメインをまとめると、広い視野から技術を見直すことになり、知財を視野に入れた技術戦略を考えることができる。技術と知財の共同、作戦を組む上で、パイロット作業は大変に有効である。

C本格作業/WHGマップ

パイロット作業では、発明をWHAT、HOW、GOALの三軸でつかみ、自他の技術ドメインとしての座標を用意する。本格作業に重要なことは、攻撃対象とするライバル企業を絞って、自他の特許出願状況をWHGマップ(たとえば、WHATとGOALの二次元座標)に配置することである。調査する特許情報はせいぜい3年も遡及すれば十分である。最新の特許情報でも発明時点から2年程度は時間を経ており、すでに古い。大事なことは外挿するのであるから、技術の変化の勾配が知りたいのである。

WHGマップに記入された自他の特許情報を見ると、攻防状況や力関係がわかる。ライバルが何をねらっているのかが見えてくる。

ここからが戦略である。相手のねらいがわかったところで、その中でも特に重要なゾーンに強力な発明を仕掛けて攻撃をかけるのである。相手が痛くも痒くもない無意味な攻撃はムダである。どうせ打ち込むなら、相手側が欲しくなる玉を打ち込む。大事なことは『自社の得意ワザ×相手の欲しがる技術=出願価値大』である。そのための準備として、相手のことを良く知ることが不可欠なのだ。重要なゾーンを選択し、力を集中させるための自他相対関係の把握と先き読みが勝負になる。

このように対抗関係で問題を整理しておけば、コトあるときには筋道を立てて対応策を考えることができ、最適な手段や手法を柔軟に選ぶことができる。敵の特許情報から戦略を学ぶのである(図5)。

D発明者分析と先き撃ち

競合他社の発明者をリストアップする。一連の出願を生み出している精力的な発明者をピックァップし、出願を時系列に並べてみる。どんな課題に取り組んできたか、どんな技術がバックボーンになっているのか、ほかの発明者とはどのようなかかわりを持っているのか、発明者を取り囲む大よその状況を読み取るごとができる(図6)。

その発明者の一連の出願の延長線上に、自社の得意ゾーンを重ねてみる。ライバル技術者の過去の動向から、今ら後の動きを読む。過去の経緯からして、相手は5年後にどんな技術を打ち出してくるのか?こうして、自社の技術者に勝負してもらう攻撃ゾーンを明確にする。


E戦略的パテントの創出

ここまでくれば、ねらいを定めた技術者は、自ずから自分の得意技術を活かして、強力な発明を生み出すことができる。過去の論理展開を見直す課題系統図や、発想シートなどが役に立つ。また、前回に取り上げたWHAT、HOW、GOALカードを発想のヒントに使うトランプゲームも知的好奇心を喚起するのに役に立つ。これらの発明創出ツールを使えば、技術者の発想はどんどん膨らむだろう(図7)。


ここから学ぷこと


技術者と知財とのかかわりの本質は技術者の知恵の創造と新価値の創出にある。新しい技術へ、夢と挑戦から生まれる発明の創出に本質がある。

だから、知財を政策論争やブームに任せてはならない。知財が生産性向上につながり、社会変革へ大きな影響を与えるために、重要なのは中身である。知財ブームの波に揉まれるだけなく、技術者にとって関わりが深い保護対象(発明)の定義問題など、論議すべきことは多いのである。
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