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中島 隆 新連載
特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングのすすめ
【第8回】特許情報をどう加工して利用するか 
     −明細書から切り出した言葉を活用しようA−
     <中級編:特許情報をゲーム感覚で見てみよう>
 

インターネットで「ゲーム」を探ってみた。おもしろオンラインゲームや携帯ゲームのWEB、攻略本からGAME雑誌、そして国内外PCゲームのニュース配信まで、ありとあらゆるゲーム関連の情報を瞬時にとることができる。少し古いが1996年のPC用ゲームソフトの輸出1,676百万円、輸入1,035百万円。欧州、アジアへの輸出が効いている。

2001年度はITバブル崩壊と言われ、世界的にパソコン需要は前年比88%に大きくダウンした。これに対してパッケージソフトの市場は17%増と大幅に拡大している。"知的高付加価値へのシフト"の典型がここにも見える。プロードバンド環境の整備に伴って、高速インターネットが企業から家庭へと進展し、コラボレーション系といわれる電子メールやインターネット対応個人用情報管理ソフトが大幅に伸びた。こんな動向を反映して電車の中でのケイタイは、ほとんどがメールとゲームだという。

しかし、仲間と離れてひとりケイタイに向かい、ゲームに熱中する後ろ姿は余りにもさびしくはないか。そんな風に思いながらも、昼休みにソリティアや囲碁を楽しむのも日常である。

さて、前回は特許明細書に書かれている発明の3点セットの話しをした。@発明の目的と、AWHAT(目の付けどころ)、BHOW(どのような働きをさせようとしているか)の三つである。この3点セットをつかむことができれば、公報明細書に書かれている発明のヒントを学ぶことができる。先ず最初に発明を生み出す目的【GOAL】として×××をしたいと考え、その上で、自分の知識と経験をフルに活用して【WHAT】を技術的対象として選び、その目を付けたWHATに【HOW】(どんな)働きや動きをさせようと考えたか、この3点セットでその技術者が駆使した知恵と工夫がハッキリとわかるのである。

特許明細書には、この【GOAL】と【WHAT】、【HOW】の3点セットが書かれているのである。これこそが、特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングの材料である。


切り出された言葉の不思議


特許明細書は、技術者が生み出した発明を文章で表現した文書だ。そして、明細書の実際の役割は、法的な権利書に相当する。だから、その文書の性格上、読みやすさや、技術的な内容の正確さ、あるいは、わかりやすさなどよりも、権利的に適切な文章によって、権利主張の内容が明確に表現されていることが大事である。技術的な正しさや読みやすさよりも権利表現の適切さが優先されるのだから、特許明細書を技術文献だと考える方が間違いなのである。

そう言っては何だが、特許明細書は読みにくさが身上なのかもしれない。そこで、われわれのように、何とかして先人の知恵と工夫を特許明細書から抉り出そうとする場合には、それなりの知恵と工夫が必要になる。

その第一の知恵と工夫が、一件一件の特許明細書にこだわらず、一群の明細書を束として統計的に利用することである。一件の特許明細書に何が書いてあるのかを正確に理解する必要はないのだと、決めてしまうことである。特許明細書を丁寧に読んで内容を正確に理解したところで、所詮、その発明は二年程度も前の昔の発明である。だれかが完成してしまった発明である。そんな発明を正しく理解したところで、特別な場合を除いて、何も生まれないのである。

それよりも、同じような特許明細書を数十件程度選び出し、それらを母集団として多少のバラツキには目をつむることが大事である。

第二の知恵と工夫は、特許明細書から、ここぞと言う文章部分を切り出し、切り出した文章部分を別の白紙文書に貼り付ける。こうして、もとの特許明細書と、切り出した文章部分との縁を、強引に切らせてしまうことである。特許明細書は、本来、内容を理解しやすいようにというような目的で書かれているものではない。だから、理科系の文章という面からすれば、悪文の海の中に必要な文章部分がところどころに散らばっているということになる。

そこで、特許明細書から必要な文章部分を切り離すのである。こうして邪魔な部分を外すと、今度はその切り離した文章部分が独自の力を発揮し始める。切り出した文章部分が重要な意味を持ち始め、重要な言葉が自然に浮かび上がる。その言葉がキッカケとなって新たな発想を生み、創造への道を拓いてくれるのである(図1)。




最近の電気洗濯機から知恵と工夫を盗む


文章部分の切り離しを具体例で考えてみよう。最近の白物家電の中でも電気洗濯機には、なかなかおもしろい生活の知恵と工夫がちりばめられている。たとえば、洗濯機の回転水流と上下移動水流を同時に発生させ、洗濯物の洗濯槽内での動きを複雑に変化させ、洗いむらを少なく、洗浄性能を高める工夫がある。槽内での菌の繁:殖を抑制し、カビや臭い、黄ばみなどを抑える工夫、洗濯物の偏りによる床面の振動や騒音に対する工夫、あるいは、脱水運転中は蓋が開かないようにする安全対策の工夫なども盛り込まれている(図2)。

このような最近の電気洗濯機の公開公報明細書から、前述の【GOAL】、【WHAT】、【HOW】の3点セットを文章として切り出す。このとき、3点セットの文章の切り出しは、明細書の【発明が解決しようとする課題】や【発明の効果】の欄を見てみると、抜き出しておくと後で役に立ちそうな文章だナと思うものが見つかる。ここでは、独断と偏見も大歓迎なのである。先ず"塊より始めよ"という気楽な気持ちで、役立ちそうな文章部分を抜き出し、切り出した文章を表データに張り込んでおくと良い。



言葉が勝手に一人歩きをする


こうして特許明細書から必要な文章部分を切り出し、特許明細書との縁を切ってしまうと、もはや、読みにくかった明細書は見ないで済み、切り出した文章部分が価値を発揮する。邪魔な部分を切り捨てることによって、逆に特徴が鮮明に浮かび上がり、発明を代表する文章になる。その文章を一覧にまとめた表が新しい価値をもつようになるのである。

次に、必要な言葉(用語)を文章から抜き出す。この言葉の抜き出しを手早く行うためには、文章部分だけを一旦プリントして重要と思われる言葉をマーカーペンなどでマーキングすると作業が早い。

ここで、おもしろいことに気がつく。つまり、明細書から文章部分を抜き出したのを第一の抽象化だとすれば、それと同じように、文章部分から用語を抜き出す作業は第二の抽象化を加えることに相当する。

洗濯機のLED表示を徐々に点灯、または、徐々に消灯する発明の例では、第一のステップで、「明るさが滑らかに変化する」と言う文章を切り出した。
次に第二のステップでは、この切り出した文章から「滑らかに変化」という言葉を切り出す。同じように、「表示が見た目にも優しくなり、異常表示などと見誤る可能性も少なくなり、また徐々に状態が変化して行く様子が簡単にわかり、操作がわかりやすく簡単なものとなる」という文章から、@見た目にも優しく、A見誤る可能性も少なく、B変化して行く様子が簡単にわかり、C操作がわかりやすくなるという、4つの効果を表す用語を切り出した。

同じように、「低回転数で長いオン時間の回転時限と高回転数で短いオン時間の回転時限を交互に実行する」という文章から、「交互に実行する」という用語を選び出した(図3)。



カードゲームへの道


(1)仲間が集合

こうして、特許明細書から文章を切り出し、その文章から言葉を切り出す。このような二段の切り出し作業を行ない、文章や言葉を抽象化していく。明細書の場合には、必要な文章の周りに多くの不要な文章が取り囲んでいて、それらの文章群によって発明の内容を具体的に規定している。しかし、明細書から必要な文章だけを選んで明細書と縁を切り、切り離してしまうと、その文章が結果的に概念を広げる。同じように文章から言葉を切り出すと、言葉が連想させる概念の幅を広げることになる。

こんな言葉の切り出し作業は、グル一プ活動の中でやるのが楽しい。同じ職場の仲間などが集まって、文章の切り出しや言葉選びを行う。そして、言葉選びができたら、次の段階では切り出した言葉をカードに貼り付ける。このとき、WHATの言葉を貼り付けたカードは青カード、HOWの言葉を貼り付けたカードは赤カード、GOALの言葉を貼り付けたカードは黄カードというように色分けしておく。色分けしておくと、カードを使ってトランプのようにおもしろいゲームを楽しむことができる(図4)。



この文章の切り出し作業や言葉の切り出し作業は、自動化がむずかしい。IT技術を駆使しても簡単なことではなく、当面はパソコンのような機械では行えないこともわかった。特許明細書独特の日本語を切り出すことのむずかしさがあるようだ。だが、実はそこにこそ、人間の手を加えることの良さがある。文章のくくりや用語の抽出は、まさに人間性とIT技術の最適な組み合わせになっているのかもしれない。

(2)ゲームを始めよう

このWHAT、HOW、GOALカードを発想のヒントに使って、新しい発明を生めないか? カードを使って、ちょうどシナリオを組み立てるように、今までにない発明を発想できないだろうか? カードをトランプのようにしてゲーム感覚で発想強化練習をやってみてはどうだろうか? 

@ゲームをおもしろくするのには、チーム対抗にしよう!

チームにして対抗させるだけで、競争心が湧き、夢中になる。HOWカードを持つチームとGOALカードを持つチームの二つに分かれ、相手がアイデアを思いつかないように意地の悪いカ一ドを選んで投げかける。アイデアが出なかった方が負けである。そうすると、みんなでアレコレ、いたずらっ子に戻った気分で相談する。

問題:HOWカード「発振周波数と基準周波数の偏差をもとめる」と、GOALカード「条件などによる影響を受けずに正確に検出」
答え⇒正常時の脈拍を基準値にしてAランプに点灯し、監視時の脈拍をBランプに表示すると、両方のランプの点滅周期のズレとして脈拍の変化が診やすくなる。

ここでは、具体的な言葉が書かれているカードを使ってみた。具体的なカードを使うと、ピッタリあてはまる場合には、ずばり具体的な発明を思い浮かびやすいことがわかった。その代わりに、思いつかないときは、まったく思いつかないようだ。カードとにらめっこするだけになる場合も多い。

A時間を競ってみる

着想までの時間を競ってみる。チームみんなの知恵を絞って早くアイデアを出した方が勝ちとする。

この場合には、抽象的なカードの方が、どんな概念にでも当てはまるケースが多いように思われる。思考の範囲が広がって自由度が高まるからかもしれない。

問題:HOW「同時に行う」×GOAL「性能があがる」
答え⇒水道の蛇口に水の流れで回転するスポンジをつければ、コップを洗うのに便利

まるで早押しクイズでナゾナゾを解くような感覚で、メンバーが集中して取り組む。誰かが思いついてしまうと、「あーあ。」とがっかりしたりする。

B課題を最初に与え、カードから答えを探してみる

課題:「餅をお弁当用にもってきたが、硬くなってしまった。やわらかく食べる方法はないか?」
答え⇒HOW「水と固体を接触させる」とやわらかくなる→ポットの中のお湯に餅を浸す

洗濯機のカードなのに、弁当の餅に当てはめることができた。しかも、課題が身近だったせいか、話に尾ヒレがついて、HOW、GOALカードを材料にしてどんどんめくるごとに話が展開した。このように、先に課題を投げかける場合には、なるべく具体的(特徴的)なカードを使ったらいいのかもしれない。

C異分野から抜き出したカードを組.み合わせても、ゲームができる

課題:
WHAT「障害者情報」×HOW「その位置に保持される」=GOAL「感知の精度が上がる」
答え⇒定期券のようなICカードに障害者情報を記憶させ、受信端末に当てることで障害者が来たという情報と障害の内容が係員に伝達されるので、その障害者に最適なサポートを迅速に提供できる

ここでのWHATは医療分野からの「障害者情報」カードを用い、さらにWHATカードだけでなく、洗濯機からのHOW、GOALカードを組み合わせてみた。その結果、意外にも、障害者サポートという人に侵しい、優れたアィデアが生まれたのである。

どうやら、それぞれの特質を反映し、業界別や分野別のカードセットが考えられるのではないか。そして、異分野の情報を取り込むことで、今までその分野では考えの及ばなかったような新しい着想、観点、モノの見方を誘い込むことができそうである。それが、今までになかったような斬新な技術につながるかもしれない。

また、一見、別分野のように思えても、どの分野にも共通する言葉が結果的に見えてくることもある。それはクセのない、標準的なカードとしてまとめることができるだろう。この標準化カードは、偏らないモノの見方、一般常識的・普遍的な考え方にも通じるのではないか。自然界の現象を表しているのかもしれない。


ここから何を学ぷか?


●カードゲームはおもしろい

言葉カードにしたことにより、発想を生み出すキッカケを得ることができる。この一連のゲームを通じて気が付くことは、熱中すればするほど、カード本来の内容とは必ずしも一致しない場合もあるということである。グループのメンバーの発想が大事なのであって、カードはそのキッカケにすぎない。そして、WHAT、HOW、GOALのカードは、文章(発明のシナリオ)を組み立てる上での必要最小限のエッセンシャルな情報になり、そこから、発想をいくらでも広げることができる。無数の発明のタネがカードの中に潜んでいるのである。

次に、ゲーム化したことにより、良い意味での競争心があおられたり、チーム対抗でのスリルや面白さを味わえる。こうなると、もともとの情報が特許明細書だとは思えないだろう。三つの組み合わせの意外な偶然性が知的好奇心を刺激して想像力が喚起され、特許明細書が知的な頭脳ゲームへと姿を変えるのである。

●グループディスカッションに向いている

同じカードをグループ全員が見るので、情報の共有化ができる。テーブル上のカードに思考が集中するので、誰かのアイディアに対して連鎖反応が起きる。研究テーマなどに用いれば、強力なプレインストーミングになり得るのではないか。グループ内で自然と、課題を投げかける人、HOWを次々と工夫する人、GOALをあれこれ思いつく人のように、役割分担ができる。

●カードの要素を考えてみよう

このように、カードの要素として明細書め文章から必要な言葉を抜き出し、最小限情報をもとに概念を広げていくと、新しい発明が生まれやすいということが実証できた。さらに、時の要素を盛り込めば、製造方法の発明、ビジネスモデルの発明などにも応用できそうだ。次回は、これらのWHAT、HOW、GOALを組み合わせて戦略的な出願にどうつなげていくかを考えてみたい。

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