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中島 隆 新連載 |
特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングのすすめ 【第7回】特許情報をどう加工して利用するか -明細書から切り出した言葉を活用しよう@- <入門編:手早く、簡単に明細書を読む工夫> 特許の継続監視ほど嫌なことはない。第一に、いま取り組んでいる技術テーマが他社の特許権を侵害するとなれば、困るのは自分たちである。だから、特許の監視は楽しいはずがない。 |
◎図1 技術者の思考の筋道は山登りのようである。 目的を達成するための手段(WHAT)と方法(HOW)はいくらでもある。 |
特許明細書から三つのことを読み取ろう このように、特許明細書は複雑な構成になっているが、そういうものだと認識しておけば、恐れることはない。 複雑なところを読まなくても、技術者が考える上で必要なポイントがわかれば、明細書は十分に自分にとって役に立つ情報になるのだ。 現実の技術者が思考する順番に合わせて、特許明細書の中から技術者に適した分類フラグ付けをしてみよう。 まずは、技術者の最初の観点である「目的」を抜き出してみよう。明細書.の記載からすると順番は逆になるが、抜き出しやすい個所である。【課題を解決する手段】のうちの後半部分、あるいは、最後の【発明の効果】を見ればよい。 次は、目の付けどころ「WHAT」に照らして、発明が対象にする場所や位置、対象箇所など、フォーカスする対象を用語として抜き出して設定する。原則は、【特許請求の範囲】に書かれている構成要件のうち、もっともよくその発明を表す構成要件を抜き出し、さらに、その構成要件の中で代表する言葉(用語)を抜き出す。複数の構成要件の全体として発明が特定されるような場合には、そのうち、もうとも特徴的で必須な構成要件を抜き出す。 そして、技術者がフォーカスする対象に対して、どのような働きをさせようと考えているか「HOW」、作用説明を抜き出す。ここで「構成」の次に「作用」を分類フラグとして取り上げるのは、○○○という作用を前提にすれば、発明の実態としての手段は、技術者の知識や経験などの才覚で容易に考えることができると思うからである。 たとえば、作用の分類フラグとして"補強する"という用語を抜き出すならば、補強するために「太くする」とか「鉄筋を入れる」などの具体的手段は、技術者が設計内容として自力で考えられる事柄だろうと思うのである。 【課題を解決するための手段】に含まれている作用説明や、【発明の効果】の記載部分から作用説明を抜き出す。 この場合には、「この発明は…という構成にしたので、○○○する作用(働き)をなし、×××するという効果をもつ」という文章の「○○○」という作用記載部分から抜き出す。 フロントページでは公報番号と出願人、出願日が三点セットであった。これに対し、明細書の三点セットは、目的とWHAT、HOWなのである。 最近のソニーのビジネスモデル特許の例 具体的な例で、特許明細書からフラグを抜き出してみよう。 「電池使用料金課金システムおよび課金方法(特開2001-285955)」では、フロントページで書誌的事項の三点セットを確認する。それに加え、特許分類や要約、代表図を見れば、大まかにイメージできる。この例では、要約中に課題として「情報機器の電源として用いられる電池の使用料金を適切に維持する」と書いてあり、ピンとこなくてもめげることはない。ここでは漠然とつかむ程度で次に進もう。 次に、内容を見るために明細書の三点セットに移る。 目的として【発明を解決する手段】の後半に、「〜以上のような発明によれば、電池パック本体を売り切る代わりに、情報機器によって使用された電力に応じて課金することにより電池使用料金を回収することができる。」とあり、使用量に応じた課金をビジネスの目的にしている新しい発想だということがわかる。 WHATとして【特許請求の範囲】を見てみる。たいていの発明は、複数の構成要件で構成されているのが普通であり、何を特徴としているのか見定めるのは容易ではない。しかし、目的が先にわかれば類推することが可能になる。技術者の思考を考えて無理なく「電池パックの電池使用状況」を抜き出すのがよい。 HOWの抜き出しが、一番むずかしいだろう。ともすれば、HOW(作用、働き)は目的と混同してしまいがちだからである。「…なので、○○○という働きがある」の○○○部分がHOWにあたるのだが、これは慣れが必要であろう。今回は、「情報回線を利用して、自動課金する」という部分を【課題を解決する手段】から抜き出した。これをまとめてみる。 @「電池パック本体を売り切る代わりに、情報機器によって使用された電力に応じて課金することにより電池使用料金を回収すること」ことを目的とする。 A「電池パックの電池使用状況」に着目する。 B「情報回線を利用して、自動課金する」働きをもたせる。 このような三段論法になっている。目的・WHAT・HOWが、ホップ・ステップ・ジャンプのように展開されているのである(図2、図3、表)。 |
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ここから学ぶこと このように、目的・WHAT・HOWというケモノ道をたどれば、特許明細書を読み進むことはむずかしくない。明細書というジャングルのケモノ道がわかれば、特許公報を読むスピードは格段に上がる。 技術者が頭の中で物事を考える順に特許情報からポイントを抜き出すことができれば、思考の流れに沿ってスムーズに発想を誘い出すことができる。抜き出したポイントは技術者が発明を多様に展開する手助けとなり、たとえば、発明を見る観点を広げることができ、出願強化にもつながるだろう。 ★ ★ ★ 次回は群としての特許情報の活用について考えてみたい。適切な分類フラグは思考の道しるべとなる。一歩進めて、道しるべをたどるようにフラグ情報の共通性に基づいて一群の特許情報をくくり直す。そうすると、個別の情報ではわからない全体が見えてくる。 特許情報の群(束)としての活用について実験を進める積もりである。 |
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