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中島 隆 新連載 |
特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングのすすめ 【第6回】特許情報をどう加工して利用するか 新しい発想はどこから来るのか |
PALSを用いた発想実験(その1) スプーンから扇風機の発想を生む PALSでは図面の見やすさを重視した。そこで、社内のスタッフ数名を集め、図面だけで新しい着想が生まれるかどうかのグループ実験を行った。 グループ作業での意識共有の第一歩として、共通ルールを設けた。 【ルール1】以下のステップに沿って実験作業を行う。 【ルール2】自分の考えを必ず仲間に発表する。 情報の共有と作業への集中は、グループ作業の効率を高めるために不可欠だ。 (1)命題を設定する 何を目的として実験作業を行うのかという命題なしには、作業が散漫になってしまい、無意味である。そこで、次のような命題を設定した。 「私たちの会社では、コタツ外注を使って低廉な小型の首振り扇風機を製造販売してきた。しかし、昨今の中国の台頭は目覚しく、今のままでは撤退しなければならなくなってしまう。このままではジリ貧である。技術者の知恵を使って、何とか付加価値のある、わが社独自の扇風機を考えてくれないだろうか?」 (2)自分なりに、まず、考える 何事も、まず最初に自分で考える。 これがないとダメである。始めに、自分なりの仮説を立てることが重要である。いきなり特許データを見始めると、それに引きずられてしまう。頭の中に、思い込みや固定概念が生まれてしまう恐れがある。まして、他人もこんなことをしている、とガッカリすることも多い。そうすると、特許情報を発想のヒントとして使うことなんて本末転倒だと言うことになってしまう。頭の体操を始める前に、頭脳のウォーミングアップが必要なのである。 Aさんは、最近のアロマテラピーのブームから、匂いの出る扇風機はどうかと考えた。また、Bさんは、持ち運びに便利な携帯用扇風機を、Cさんは前後左右あらゆる方向に風の出る扇風機を考えた。 (3)スプーンのかたちをPALSで見る 自分なりの仮説を立てた上で、PALSで特許情報の図面を見てみる。キッカケとしての特許情報には、何を用いてもよい。異分野の特許の方が、固定概念にとらわれず、ヒントになる情報があるのではないか。今回は、扇風機とは無関係なスプーンのかたちに関する最近の公開特許を30件程度用意した。 なるべく短時間で、理屈を考える暇なく、次々に脳に知的な刺激を与えよう。パラパラとページをめくるような感覚で、とにかく図面イメージを見る。人によって個人差があるだろうが、あまり一つの図面をじっくり眺めるのではなく、次から次へとクリックするとよい。たいていは"なんだ、知ってる"と思いながらだろう。しかし、その中で何か"アレッ"と気がつくものがないだろうか。 (4)仲間に説明する 図面を見て浮かんだ発想について、概念を新たに構築する。その着想を、もう一度仲間に発表するのだ。この後の議論のために、各自が何かしら材料を提供しなくてはならない。否が応でも、何か発言しないとカッコ悪いのだ。 Aさんはギザギザスプーンの歯の形状から、団扇の軸を連想した。そもそも、団扇の軸は何の役目をしているのだろうか? Bさんはレンコンの断面図のような図にヒントを得た。無数の穴が風の流路をガイドする役目をしないだろうか? Cさんは、スプーンのどこの部分かわからないが、波状のカーブしているひも状の図形に着目したようだ。これが扇風機の羽根にならないか? 両方向にカーブしているので、これを回転させれば、前と後ろの両方向に風が出ないか? (5)新しい扇風機の概念が… これで、議論の土俵が出来上がったようだ。隣のAさんがCさんの着目した"ひも形"の図面を見て、"尺取り虫のように動かしたら、おもしろくないか?" "ひもではなく、板を伸縮させたら風が出ないだろうか?"と思いついた。Bさんは、メモ書きしていた紙の両端を持って動かし始め、"これを水平ではなく縦にしたら、おもしろい扇風機になるのでは?"とトントン拍子に新しい扇風機の概念へ発展した。 あることを思いつくことを「発想」するという。ここでは、PALSで見る特許の図面をキッカケとしてCさんが「発想」した。Cさんの「発想」につられて、隣のAさんがそれと関連のあるほかの概念を「連想」する。この「連想」という行為は、自分の考えと同方向で発展したものもあれば、逆方向の考えの場合など、幾通りもあり得る。だから、ディスカッションが白熱すれば、「発想」が次々と連なり、「発想」と「連想」の「連鎖」反応が起こる。結果的には、出発点とは遥かに離れた独創性のある帰結にたどり着くのである。 一人では、自分の考えの枠から抜け出せない。同じところの堂々巡りのスパイラルに陥ってしまう。グループ活動が、この悪循環を打破する重要な鍵を握っているようだ(図2)。 |
ここから学ぶこと @頭脳のウォーミングアップ…自分の考えを熟考し、仲間に説明する 考えてみれば当たり前のことだが、ウォーミングアップはグループディスカッションにおいても重要である。共通の命題を解決するためには、その前段階のレベル合わせとして、グループ全員がまず自分なりに考えるべきである。スポーツ競技と同じである。 この頭脳のウォーミングアップ作業をしておかないと、お互いの専門意識が揃わず、フラストレーションが残る。あるいは、抽象的で内容の薄い、うわべだけのディスカッションになりがちだ。井戸端会議でしかなくなってしまう。 この頭脳のウォーミングアップには「他人に話す(伝える)」ことが有効である。今回の実験では、PALSで特許図面を見る前と、見た後に、自分の考えを仮説としてまとめ、仲間に発表することにした。これは他人に発表し説明するために集中して考えるためである。目的は何なのか、自分では漠然とわかっていることを他人に説明するためにどんな表現を使ったらいいのか、具体的にどの部分を強調すればいいのかなどを考えなくてはならない。そうすることによって、すさまじい勢いで脳が活性化され、各人の問題意識が高められる。 A図面の効用…パラパラ見て脳を刺激する、共通要素からヒントを得る エレクトロニクス技術者にとって、図面は発想のキッカケになる。じっくり眺めるのではなく、PALSでパラパラと紙をめくるような感覚で、次から次へと図面を見る。こうして、イメージで脳を刺激するのだ(図3)。 |
◎図3 PALSの公報表示画面 |
また、BさんとCさんが着目した図面は、それだけを見るとスプーンの構造を示す図面だとは思えないものである。この図面は、ズプーンの形状ではなく、抽象的、概念的な図面(イメージ)ということである。 扇風機を考える上で、具体的なスプーンの設計図はイメージ造りの邪魔になる。それに引き替え、スプーンとはかけ離れた抽象的形状は、イメージ造りの重要なキッカケになる(図4)。 異分野の技術を見るとき、具体的な専門技術や言葉は、ある程度平易な言葉に置き換えたり抽象化すれば、共通性が生まれて理解しやすい。これと同じことが図面にも言える。技術内容がかけ離れていても、抽象的な図面にすれば関連性が出てくる。共通性を見出してキッカケを得られれば、斬新な発想が生まれる可能性がある。 逆に、技術内容が近ければ、図面の理解も容易だが、細かいところに目がいってしまう。このため、チマチマした発想ばかりで、大胆な発想は生まれにくい。発想のヒントとして図面を利用する場合には、何を解決したいのか、その命題(目的)をキチンと決める必要があるだろう。 |
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私たちの命題は、「特許情報を、新たな発想を生み出すために活用できないか?そのためには、どんな工夫をすればいいのか?」ということである。今回は、PALSの図面重視機能に着目し、実験例を披露した。次回は、明細書の文中から言葉の切り出しを考える。文章部分に着目した実験:例について紹介したい。 この大きな命題を達成するためには、さまざまな実験作業が必要である。そして、自分たちだけでなく、多くの技術者の方々との実験・実証作業が不可欠だと考えている。ご意見、アドバイスなどをぜひ賜りたい。 |
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