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中島 隆 新連載 |
特許情報に学ぶクリエイティブ・シンキングのすすめ 【第4回】 米国特許と日本特許 比べてわかる有効活用の決め手(4) 本連載では日米の特許をクレームで比較する比較分析の回を重ねている。4回目になる。ここでは、特許請求の範囲"クレーム"で比較しているが、クレームが発明の内容を権利主張するために、最低限にまで技術的要素を絞り込んだ特殊な文章であるからである。だからクレームを比較すれば、日米の技術者の発明に対する取り組み方の違いを知ることができると考えている。 |
アマダの特許を見る アマダは世界有数の機械加工工作機器の専業メーカーである。今回の材料として取り上げる日本特許は「高知能製造システムをエキスパート曲げ計画作成システムと統合する方法および装置」(JP3212918)というものである。ここで興味が尽きないのは、技術者と企業の両方の国際性にある。アメリカ在住のハザマ氏とHuang氏が国際色豊かにアメリカで共同で発明している点が1つである。 二点目は、日本のアマダとアメリカのアマダの両社が共同で出願し、上記の日本特許では板金加工のインテグレートシステムだけを権利化しているのに対して、アメリカ特許(USP6,243,611)では、板金加工のインテグレートシステムだけでなく、コンピュータプログラムについても権利を獲っているという点である。 三点目は、米国特許制度の仮出願を利用し、優先権を使っていない点などもあるが、仮出願のメリットなどについての詳細は別の機会に譲ろう。 いずれにせよ、国際的な市場を睨んだ国際的な商品開発力をもった企業出願に現れた両国の密接な関係を示す典型例だと言えるだろう。 図2にアマダの日米両特許の出願から権利化までの時間的経過と関係を示す。 |
クレームを比較してみよう 表は、日本の公開段階と特許になった登録段階、それに、アメリカの登録段階のそれぞれについて、第一のクレームを並べて対照したものである。 先ず、日本の公開段階では、出願人は次のようにシステムを主張する。 「総合的板金製造生産システムにして、 製造される板金パーツの曲げモデルを生成するための高知能製造システムと; 前記曲げモデルに基づいて前記板金パーツを生産するための曲げプランを生成し提案するためのエキスパート計画システムにして、前記エキスパート計画システムは複数のエキスパートモジュールを有するものと; 前記エキスパート計画システムを、異なる曲げ加工への適応に適合させるために前記複数のエキスパートモジュールを選択的に起動するためのシステムと; を備え、 これにより、前記エキスパート計画システムは、選択的に起動された前記複数のエキスパートモジュールに基づいて前記曲げプランを生成するシステム」だという。 そして、日本で特許となったクレームでは、次のように変わっている。 「総合的板金製造生産システムにして、 製造する板金パーツの2次元単一平面図、又は平面図・正面図・側面図を含む2次元3面図、または3次元フレ一ム図から、曲げ加工前の2次元展開図と曲げ加工後の3次元画像を含む曲げモデルを生成するための高知能製造システムと; 前記曲げモデルに基づいて前記板金パーツを生産するための曲げプランを生成し提案するためのエキスパート計画システムにして、前記エキスパート計画システムは複数のエキスパートモジュールを有するものと; 前記エキスパート計画システムを、異なる曲げ加工への適応に適合させるために前記複数のエキスパートモジュールを選択的に起動するためのシステムと; を備え、 これにより、前記エキスパート計画システムは、選択的に起動された前記複数のエキスパートモジュールに基づいて前記曲げプランを生成するシステム」だと、アンダーライン部分だけが追加されたのである。 ここでは、なぜ、アンダーライン部分が追加されたのであろうか?「2次元単一平面図や、平面図・正面図・側面図を含む2次元3面図、あるいは、3次元フレーム図が必要であり、これらの図面から、曲げ加工前の2次元展開図と、曲げ加工後の3次元画像を含む曲げモデルを生成する」と具体的に図面を説明しないと、特許として権利をとれないのだろうか? |
米国特許のクレームを見てみる これに対して米国特許のクレームを先の日本特許の調子に合わせて訳してみると、以下のようになる。 「製造する板金パーツの曲げプランを生成するための総合的システムにして、 前記板金パーツの曲げモデルを生成するための高知能製造システムと; 前記曲げモデルに基いて前記板金パーツを生産するための曲げプランを生成して提案するためのエキスパート計画システムと; 前記高知能製造システムからのメッセージを前記エキスパート計画システムへ生成・転送するためのインターフェイスモジュールにして、前記エキスパート計画システムは、前記メッセージに基いて前記曲げプランを生成するものと、 を備えるシステム」となっている。 米国特許ではメッセージが要件として加わってくる。その反面、図面の限定にはふれていない。また、メッセージを生成・転送するインターフェイスモジュールの記載があり、モジュールの場所は特定されていない。インターフェイス(境界)として両システムの間に存在すればよいのである(図3)。 |
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ここから何を学ぷか (1)明細書の記載スタイルの対象を学ぶ 日本の明細書の記載スタイルは、特許施行規則によって具体的に見出しが規定されている。米国でも同様に見出しやスタイルが規定されている。この両方をうなぐのにはちょっとした工夫が要るのだが、日米の明細書記載について上記アマダの特許を教科書に比較すると、その橋渡しがよくわかるだろう。 両者の記載の大きな違いは、『従来の技術』と『自分の発明』をどのように分けて捉えているかという点にある。日本では、今までの技術の説明のために[従来の技術]の段落を設け、その問題点だけを[発明が解決しようとする課題]に別記載している。 一方、米国では[従来の技術]と[発明が解決しようとする課題]は過去のものとして[Background Information]にまとめて記載している。同じように、本発明について日本では[発明の目的]と[課題を解決するための手段]という2つの段落に分けて記載されているのに対して、米国では[Summary of the Invention]として、ひとつにまとめられている。 このように、米国特許の明細書ではどこまでが古い技術でどこからが新しい技術なのかが、記載項目で明確にわかる。前記アマダの日米特許の明細書を比べてみると、記載されている内容はほぼ同じなのだが、項目の分け方(つまり、発明の捉え方)が異なっているのがわかる。 (2)コンピュータプログラムの特許を知る機会になる 米国特許のクレーム11から以後は、すべてコンピュータプログラムの特許になる。コンピュータプログラムについては、特許法・著作権法上での扱いについて、議論のあるところなので、ここでは詳しく述べない。ただし、米国特許ではプログラムをクレームしているのに対して、日本特許では「著作権通知」として末尾にプログラムを掲載し保護を図っている点だけ挙げておく。 (3)英文明細書からまとめてみるのもおもしろい (1)で説明した明細書の記載方法のように、何が自分の発明したものなのか、形式にとちわれずに考えてみるのもよい。過去の技術と現在の自分の発明の違いがキチンと把握できれば、細かい項目にブレークダウンすることも容易にできるだろう。 ★ ★ ★ 米国は先発明主義であり、出願する時点ではすでに発明の内容を明確に把っていることを前提としている。だから、ベストモードも明確なはずだという。これに対して、日本では先願主義であり出願を急ぐので、発明が完壁ではないという前提にある。このように世界各国で特許制度や発明の見方が異なっており、いろいろな見方を学べる。 特許とは、自分の生み出した発明を「技術的思想」として権利主張するものである。 技術者は、自己の発明を技術的な思想として上位概念にまで高めることによって、企業の設計技術にとらわれない、技術人としてのアイデンティティを築き上げることができるのである。 (つづく) |
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