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中島隆連載 第13回
続・新発想養成講座 特許情報から研究開発のヒントを!
【第13回】 創造のキッカケは特許情報を分類することから始まる


 私たち技術者は、一件一件の特許情報に目を奪われすぎているのではないのだろうか。ここでは、特許情報を一群としてとらえ、その中に含まれるいろいろな特許情報を分類しながら、発想を楽しむことをお勧めしたい。

 百科事典1)によると、西洋での「分類」はアリストテレスの動物の分類に基礎があるそうだ。植物の分類や食物の分類など、人類の歴史とともに古い「分類〈わける〉」という行為は「理解〈わかる〉」に通じるとも説明されている。インドや中国にも古くから分類を現す語があるそうだし、コトバの分類としては、すでに古代エジプトやメソポタミアに分類語彙集(シソーラス)があったというのだから、なんだか上野の国立博物館の地下室に入り込んだ気分になる。とにかく、「分類する」という行為は、私たち人類にとって至極、自然な行為らしい。

 さて、動物分類や学問分類、図書分類など、世間にありふれている「分類」では、全体を共通性にしたがって細分し、階層的に体系化することが本命で大事なことである。つまり、体系的にスッキリさせれば、それでよい。

 しかし、ここでの「特許情報から研究開発のヒントを!」という点では、スッキリさせることには、あまり重きをおかない。スッキリしようと、しまいと、どうでもよいのである。それよりも、新しい創造を生み出す何かのキッカケが得られる事の方が、技術者にとって、よっぽど大切である。だから、極端に言えば、他人が作り終わった分類は排泄物であり、自分のためにはあまり役立たないのである。これは、ちょうど、図書館の本がキチンと分類別に整理されていても、だからといって見やすく分類されているだけでは、新たな本を創るキッカケにはならず、新たな挑戦への勇気を起こさせることにもならないのと同じである。特許情報には特許調査などに活用する国際特許分類(IPC)という分類体系があるが、だからといって、新しい発明を生み出す力は持っていない。

特許情報を分ける
 ときには特許情報を一件一件、丁寧に時間をかけて細かく見ることも大事だ。しかし、重箱の隅を探っても、それにとらわれて時間をロスし、大局も見失うことになりがちだ。ここでは、何かの共通性に着目して特許情報を粗っぽく分け、上空から全体を見渡して、そのあとから好みの山に踏み込んで行く方法をお勧めしたい。

 表1には、通常よく使う特許情報の代表的な分類軸(項目)の例を示した。どれかの項目を単独で取り上げ、その分類項目に当てはまる特許情報だけの山を作る。一山にまとめた特許情報を平面に並べて、見比べてみるだけで全体の様子が浮かび上がってくるはずである。特許情報を順々に並べる場合には、公報そのものを並べるよりは、カード状にして並べたり、A3くらいの紙に公報番号と要点を書き込みながら作業を進めるとよい。このような流れを追う単純作業を行ってみると、作業が単純なだけに、不思議に何らかの着想や感触が沸いてくるものである。

 二つ以上の分類軸(項目)を用いて特許情報を縦横のマトリクスに並べてみると、いろいろな発明の相互関係が見えてくる。横軸を出願年に時系列に並べてみると、技術の移り変わりや全体の動向も見えてくる。ここで大切なことは、この作業を進める途中で思いついたことは、その場ですばやくメモ書きしておくクセをつけることである。一瞬であれ頭に思い浮かんだことは忘れないように工夫しよう。書き並べる作業が終わった後で思い出して整理し、きれいにまとめようと思ってもうまく行かない。人間のアタマは、入力量が増えると、それに比例して途端に忘れていってしまうのである。

●出願日での分類
 技術の変遷や動向を見る場合、基準になるのが出願日である。いつ頃の話しなのかというのは、社会の変革の中で技術を捉える上で大事なパラメータである。

 実際の発明は、出願日よりも2年程前にされていると想像するのが妥当であろうし、外国だけでなく国内にも優先日があるので注意が必要である。創造性と温故知新という見方から、以前、大正時代の発明をジュラシックパテント2)と名付けて取り上げたことがある。二、三十年単位で特許情報を分類して見直してみるのも、技術スパイラルを見計らう上でおもしろい。

●出願人での分類
 競合他社の一連の動向を知る上で大変に役に立ち、ビジネスプランを進める上でも重要なヒントになる。出願人で分ける場合には、共同出願人にも目を配っておきたい。材料メーカーと部品メーカー、セットメーカー、ユーザーなど、企業の川上、川下間での共同研究だけでなく、国の研究機関と民間企業の共同研究などもある。企業によっては、関連企業が別な企業名で出願していることもあるので注意が必要だ。

 企業別に、後述する技術内容別の分類をとり、性格チャート(レーダーチャート)に表してみると、それぞれの企業の得意技が見えてくる。コアコンピタンス(事業の重点特化)が重視される現在、マクロな経営指標としても説得材料になる。

 ある企業に標的を絞って全分野の特許情報を調べてみるのもおもしろい。その企業が、どの分野に活性であるのかを大まかであれ、想像することができる。とくに、米国特許は、比較的に件数も少なく、米国企業のR&D戦略を知り、将来に備えてバーゲニングパワー(特許上での交渉力)を備える上でも有益である。半導体からプリンタ、移動体通信、衛星などに幅の広いモトローラを例にとれば、ソフト指向の情報システム化戦略と最近の重視技術を垣間見ることができる。

●技術的内容
 発明の出発点である「課題」や「技術の内容」に分けてみる方法である。技術の内容で分ける場合には、始めに全体をザーッと見ておくことが大事である。

 発明を生み出す着想パターンを類型化して分類しておくと、自分なりの問題解決ヒントブックにもなるので重宝する。いずれにしても、私たち技術者は、分類しようとすると、ついつい、専門的に細かく分類したくなる。しかし、ニューギニアの土人の話しではないが、通常の人は「イ、ロ、ハ、ニ」や「A、B、C、D」などのように、条件反射的スピードでは5つ程度にしか分類できない。苦心して精緻な分類表を作っても、そんなに細かい分類まで覚えていられない。せいぜい、5つぐらいまでに粗く分類し、その一つをさらに5つに分類する。こんな階層的な処理方法がスピードアップにつながる。肝心なのは、分類しながら自分自身がリアルタイムで読み取り、吐き出すことが勝負である。

●発明者
 発明者の軌跡を特許情報で追ってみると、競争相手が格好のライバルとして身近に感じられ、一人の技術者を取り巻く企業環境も見えてくる。研究成果が評価されてメンバーが増えたり、取り組む技術が広がる様子などが見える。一般的にひとりの技術者の活動期間は20年だと言われている。発明者分析から自社の開発力を比較でき、研究開発のマネジメントを考える上でも参考になる。

●特許分類(IPCなど)
 自分が取り組んでいる技術分野が、特許上では、どんな分類に区分けされているのだろうか。
 自分の関係する国際特許分類(IPC)を知っておくことは、知財重視の現在、技術者の常識だといえよう。特許情報には、国際的に共通する特許分類「国際特許分類(IPC)」に従った記号が付けられており、膨大な特許情報を調査しやすくしている。

 ところが、この特許分類は、特許屋さん側で割り付けているので、技術屋さん側からは誠に使い難い。IPC分類の説明文を読んでみても何のことかサッパリわからない場合が多い。そこで、技術的にぴったりと当てはまる特許情報が目についたときは、すかさず、その特許情報に付けられているIPC記号をメモっておく。そうすると、自分が取り組んでいる技術ジャンルがIPC分類の上では、どのように割り付けられているのか、およその感覚を身につける事ができる。こうなればしめたもので、キーワードとIPCを組み合わせ、特許庁のWEBを使って関心ありデータだけを簡単に調べる事ができる。

 上記の分類枠は、普通によく使う項目を例示しただけに過ぎない。特許情報にはクレーム数、要約、図面など、いろいろなデータが盛り込まれている。自分なりのコトバや記号で分類付けをする方法もあるだろう。さらに、せっかく自分が分類付けした項目は、公報番号と一緒に表計算データに入力しておく。表計算データにしておくとソートなどができるので自分のデータベースとして役に立つ。
中島隆連載 第13回 表1
中島隆連載 第13回 イラスト
特許図面で楽しんでみよう
 特許図面は発明の要点を示した簡略図である。出願人によって、一方では、大変に模式化したシンボル的な図面もあるかと思うと、反対に、分解図のように細かく内容を示した図面もある。

 図1の特許図面では、ごく最近に公開された特許情報の中から、実装技術という観点で特徴のある発明を選び、その中でも技術的におもしろい工夫を盛り込んだと思われるいくつかの例を抜き出した。

 プリント基板にチップ部品をはんだフィレットなしで高密度実装しようとする取り組みの例(P11-243114 デンソー)、DC/DCコンバータなどをリードフレームのインサートモールドで薄型実装し、特にコイルの据え付け座の凹ませ構造と巻線のからげ端子に工夫をした例(P11-243027 長野日本無線)である。さらに、携帯電話などへの充電器からの非接触電力伝送を小型コイルで高効率に実現しようとする例(P11-265814 松下電器産業)、洗濯機などの電子回路ユニットの防水、防湿を完全密封化しながら、なお、内部を簡単に修理・交換ができるように工夫している例(P11-243283 東芝、東芝エー・ブイ・イー)、ビデオカメラのようにコンパクトな筐体の中で断熱を図りながら、放熱をも図る背反条件下での構造設計の工夫例(P11-249214 ソニー)も取り上げた。また、少し違った観点では、下水マンホールを利用して光ファイバ通信網を構築するときの工夫を取り上げてみた。マンホールの蓋の裏側に電子機器を取り付けるようだが、その場合の直射日光や外気温度による鉄蓋の温度上昇に対する断熱の工夫(P11-251760三菱電機)である。

 むかし、子供の頃に、動物あわせという遊びがあった。それと同じように、特許図面を使って、発明あわせを楽しんでみてはどうだろうか。ここに取り上げた個々の図面は、見れば見るほど、いろいろなヒントを読者に訴えかけてくるように思う。
中島隆連載 第13回 図1
 1999年のエレクトロニクスショーには34万人が幕張メッセに集まった。企業技術者のほか、土曜、日曜には、ご夫婦連れや学生の参加も多かった。内容的には21世紀の情報・通信との融合を感じさせ、出展側も「わが社の技術部門ITSをこう捉え、こう取り組む」と、思想と姿勢を明確に打ち出して、市場密着型の意欲と説得力に満ちた展示がある一方、旧態然とした電子部品の技術優位性をアピールする展示もあった。

 ここでも、流れの中で自己の意見を主張している出展内容は、説明を見るだけでも楽しいし、そこから勇気とエネルギーを受け取ることができた。それに反して、新製品を単品で展示しているだけのブースでは、その企業が何を訴えたいのか、はっきりしない。

 自分なりに大局から大きな流れを受け止め、その中で自分の意見をはっきりと打ち出してこそ、人に感動を与える事ができる。この点では、特許情報の活用にも、展示での工夫と通じるものがあるように思える。

【参考文献】
1)平凡社大百科事典v13-p398
2)「電子技術」39巻6号94頁(1997年)

●電子技術1999年12月号掲載
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