高齢化社会の進展にともない、紙おむつ(特に大人用紙おむつ)の使用量の増加が見込まれています。紙おむつのほとんどは焼却処理されますが、紙おむつは水分を含むため、焼却の燃焼効率低下の原因になります。近年では、不織布製品のリサイクル技術が進歩しましたが、使用した紙おむつの分別回収し、再資源化する仕組みをセットで考えなくては適切なリサイクルにはつながりません。今回注目したのは、紙おむつ等の不織布製品情報と利用者情報、施設情報を対応付けて管理し、施設単位で使用済み紙おむつの使用量を予測し、適切なリサイクルを管理する発明です(WO2021039079、ユニ・チャーム)。
紙おむつは毎日使用するので、新聞紙のようにリサイクルできることが理想です。紙おむつなどの不織布製品は、コットンやパルプを利用するものが多いため、リサイクルを促進することで、環境負荷を軽減することができると考えられます。それでも、なかなかリサイクルが進まないのは、使用済み商品のパルプから完全に排せつ物を取り除くのが難しい、水分を含むため処分時は重さが3~4倍になる、各家庭で分別したとしても回収する仕組みが整っていないなど、個別回収がしにくい点にあります。また、リサイクルは技術開発などでコストがかさみ、黒字化には時間がかかります。新聞紙と同じようにはいかない理由がここにあります。
この発明は、施設単位で紙おむつのリサイクルを管理するもので、紙おむつ等の不織布製品情報と利用者情報、施設情報を対応付けて管理し、施設単位で使用済み紙おむつの使用量を予測し、適切なリサイクルを管理する発明です(WO2021039079、ユニ・チャーム)。
施設とは、不織布製品を利用する利用者が居住する施設等であり、例えば、保育園や幼稚園等の保育施設、老人ホーム等の介護施設、障がい者支援施設等が該当します。
図1は、利用者Uと幼児Bとが親子関係であり、幼児Bが保育園に入園していることを表した図です。
ここでは、下記3つを対応付けて管理します。
管理システムのステップS1~S13は下記の通りです。
S1 | (保護者)契約内容を特定する |
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S2 | (保育園)在庫数を確認する |
S3 | (保育園)在庫数を通知する |
S4 | (幼児)おむつを利用する |
S5 | (保育園)使用後のおむつをリサイクル対象として回収ボックスに投入する |
S6 | (回収ボックス)不織布製品の種別ごとに回収数を計数する |
S7 | (回収ボックス)計数結果を通知する |
S8 | (管理システム)契約者数と、在庫数と、回収数との管理を行う |
S9 | (管理システム)契約内容と、在庫数とに基づいて、施設に配送する新生製品の数と再生製品の数とを通知する |
S10 | (管理システム)不織布製品を回収する |
S11 | (管理システム)不織布製品をリサイクルする |
S12 | (管理システム)再生製品を提供する |
S13 | (管理システム)新生製品と再生製品を配送する |
これにより、所定の施設情報に対応付けられた利用者情報が示す利用者のうち、新生製品の利用契約の対象となる利用者の数と、再生製品の利用契約の対象となる利用者の数とに基づいて、再生製品の数と、新生製品の数とを決定するため、施設に提供する再生製品の数と、新生製品の数とを適切に管理することができます(図3)。
また、利用者側、施設側のメリットも考えられます。
消費者や投資家の環境意識が高まり、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)への関心が高まっているいま、これからの企業活動において、メーカーは製品を作るだけでよい時代ではなくなってきています。こうした対策で出遅れると、持続的な成長が難しくなる可能性があります。
前回の注目発明でも書きましたが、環境対策は一過性のものではダメで、継続して取組みやすくするための仕組み(エコシステム)とセットで取り組まないと、絵に描いた餅になりかねません。特に、ビジネス化を考える上ではなおさらです。新技術開発と同じくらいに、新技術をビジネスに組み込む(エコシステム)を構築することが、これからの事業活動には欠かせなくなってきています。今回の注目発明の出願人であるユニ・チャームは、使用済み紙おむつリサイクルの重要技術(オゾン処理技術)に関する特許出願も行っていますが、その技術をビジネスに組み込むための、使用済み紙おむつの回収、管理システムの出願が今回の注目発明です。