生分解性プラスチックのエコシステム


2020年7月からレジ袋有料化が始まりました。コンビニやスーパーで「袋はいりますか?」と店員さんに質問されて、「いいえ、結構です」と商品をマイバックに入れるという光景が当たり前になってきました。その一方で、プラスチック素材中の環境素材の配合比率を上げることで、レジ袋の無料配布を続ける動きも出てきています。環境に優しいレジ袋と一般のレジ袋が混在する中で、レジ袋を廃棄処分する際に、環境に優しいプラスチックなのか、そうでないかを区別することは、一般の人々にとってはなかなか困難です。今月取り上げる発明は、廃棄物が生分解性プラスチックで構成されているかを判別し、判別された場合に生分解性プラスチックを分解槽に送り分解する収集装置であり、生分解性プラスチックを投入したユーザには廃棄物に応じたポイントを付与する、生分解性プラスチックの廃棄時に着目した発明です(特開2021-023858、エア・ウォーター)。


生分解性プラスチックと特許

生分解性プラスチックは、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される、使用後の環境負荷低減につながる環境配慮型のプラスチックです。しかし、その機能を有効に活用するためには、生分解性プラスチックと一般の非生分解性プラスチック製品との識別、分別回収が必要な事に加え、分解した後も土壌などに悪影響を与えない安全性の保障が必要です。日本バイオプラスチック協会では、グリーンプラ識別表示制度を設け、生分解性の基準と、環境適合性の審査基準を満たした製品に「グリーンプラ」のマークと名称の使用を認め、一般消費者への正しい理解と、正しい使用法と製品の普及を促進しています。

日本バイオプラスチック協会:グリーンプラ識別表示制度 http://www.jbpaweb.net/identification/

生分解性プラスチックに関する簡易特許検索を行いました。
発明のタイトル、要約、請求の範囲に「生分解性プラスチック」または「生分解性樹脂」が記載されている国内公開・公表・再公表特許情報の出願件数を調べました。
2000年~2003年ごろまでは250~300件で推移していますが、その後は下降傾向にあります。日本の特許出願は全体として減少傾向(2000年頃には約40万件/年だったのが、2010年頃には約30万件/年に減少、量的重視から質的重視への転換と言われている)ではありますが、近年では環境問題が重要視されているにも関わらず、生分解性プラスチックの特許出願がピーク時の20%以下になっています。

生分解性プラスチックの製造コストは、一般のプラスチックよりも何倍もかかると言われていることもあり、生分解性プラスチックの特許出願件数から、環境とビジネスを両立させるのは、たいへん困難なのだということが示唆されます。

※発明の名称、要約、特許請求の範囲に生分解性プラスチック」または「生分解性樹脂」が記載されている国内公開・公表・再公表特許情報。


エコシステムを作る

生分解性プラスチックの生産だけでなく、消費者の利用しやすさや、回収のしやすさなども考慮した、生分解性プラスチックのエコシステムを作る必要があります。

今回取り上げたのは、廃棄物が生分解性プラスチックで構成されているかを判別し、判別された場合に生分解性プラスチックを分解槽に送り分解する収集装置であり、生分解性プラスチックを投入したユーザには廃棄物に応じたポイントを付与する、生分解性プラスチックの廃棄時に着目した発明です(特開2021-023858、エア・ウォーター)。


収集装置(図1)には、廃棄物の投入口があり、投入された廃棄物が生分解性プラスチックで構成されているか否かを判別します。廃棄物が生分解性プラスチックで構成されていると判別した場合に、廃棄物を分解槽に送ります。



生分解性プラスチックかどうかの判別は、廃棄物の特徴部分を画像処理により認識します。
廃棄物の特徴部分は、例えば、ICタグや学習済みモデルを用いて認識されます。学習済みモデルを生成するための学習手法としては、種々の機械学習アルゴリズムを適用することが可能です。

図6は、ICタグリーダーによって読み取られた物品情報を示します。物品情報には、廃棄物に関する各種の製品情報(製品ID、製品の容器の成分情報、製品(食品)の製造元の会社、容器の製造元などの情報、製品の小売店元情報、エコポイントなど)が含まれています。


利用者へのポイント付与と、小売店へのインセンティブ付与

生分解性プラスチックの収集を促進するためには、言い換えれば、生分解性プラスチックの収集装置の利用してもらうためには、ユーザが何かしらのメリットを受けられるような仕組みを作ることが重要です。
そこで、この発明では、生分解性プラスチックの収集に協力したユーザに対してエコポイントを付与する仕組みが組み込まれています。

エコポイントは、商品の交換に用いられたり、商品の購入費用に充当させたりすることができます。ユーザにエコポイントを付与する仕組みは図11に示されています。付与するエコポイントは、物品情報に含まれている小売店元情報によって特定される店舗によって負担されるとしています。これらの店舗には、エコポイントを負担するインセンティブとして、マーケット分析情報や、収集装置の利用者情報が提供されます。



ビジネスエコシステムとビジネスモデル特許


SDGsに代表される社会課題への関心の高まりとともに、環境、ビジネス、社会をともに発展させてくという視点が欠かせなくなってきました。生態系におけるエコシステムと同じように、地球環境の上に存在する社会の構成員として、生産者、小売者、消費者が、ともに共存していくための仕組みを考える、そのようなビジネスエコシステムの観点が重要になってきています。特許情報の中でも、技術を起点としたビジネスモデル特許の中に、表れてきているように思われます。


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