流通プロセスにおけるCO2排出量のトレース


近年、サーキュラーエコノミーへの関心が高まっています。サーキュラーエコノミーの目的の一つは、環境負荷の軽減です。そのため、製品等の流通プロセスにおけるCO2排出量をトレースする必要があります。今回は、製品等の流通プロセスにおけるCO2排出量をトレースする技術に注目しました(特許6965399、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ)。


サーキュラーエコノミーとSDGs

従来の「大量生産、大量消費、大量廃棄」の直線型モデルでの経済成長が世界的に頭打ちとなりつつある今、既存の資源を循環的に利用し続ける経済システムとしてサーキュラーエコノミー(CE)が注目されています。CEの概念は、単に資源効率を高める社会システムではなく、経済活動と環境保全を両立できる持続可能な社会システムを目指すものです。


国際的にもCEの重要性は広く認知されつつあり、移行に向けた取組は加速しています。CEへの移行は、2015 年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の「ゴール 12:持続可能な生産と消費(つくる責任、つかう責任)」でも明確に掲げられているとともに、「ゴール 13:気候変動(気候変動に具体的な対策を)」や「ゴール 14:海洋資源(海の豊かさを守ろう)」等の他のゴールの達成にも貢献するとされています。



サプライチェーンにおけるCO2の見える化

製品等の有体物の流通プロセスは、製造、配送(または納品)、使用、回収及び再利用(またはリサイクル)などの種々の工程を経ています。そのため、一部の工程のCO2排出量を算出するだけでは、製品等の流通プロセスにおけるCO2排出量をトレースすることはできません。


この発明は、電力の情報及び燃料の情報を用いて製品の流通プロセスにおける複数の工程のそれぞれで発生したCO2排出量を算出します。

図1はこの発明の情報処理システムの概略構成図です。
送電事業者管理システム、電力小売事業者管理システム、製造工場エネルギー管理システム、生産管理システム、取引仲介支援装置などがインターネットなどのネットワークなどを介して有線または無線で互いに情報通信可能に接続されています。生産管理システムは、工場X内の各製品の製造工程における各装置及び各製品の動作時間(電力または燃料で動作する時間)を管理します。これにより、工場Xの中で使用される電力消費データ(空調、照明、製造装置など)、燃料消費データ(自家発電機械、ボイラーなど)を算出します。


CO2排出量の算出処理手順(図5)
  • 有体物の流通プロセスにおける複数の工程のそれぞれで使用された電力の情報及び燃料の情報を取得する
  • 電力の情報及び燃料の情報を用いて複数の工程のそれぞれで発生したCO2排出量を算出する
  • 算出された複数の工程のそれぞれで発生したCO2排出量を有体物に関連付ける


予測モデルの生成処理手順(図6)
  • 予測モデルの生成に用いるデータを取得する(ステップ20)
  • 流通プロセスにおける複数の工程のそれぞれで発生するCO2排出量を予測する工程毎の予測モデルを生成する(ステップ21)
  • 生成された予測モデルに記憶させる(ステップ22)

ステップ20では、同種の複数の製品についての製造工程における電力の情報及び燃料の情報、製造工程で発生したCO2排出量データを取得します。
「動作時間d」「電源別使用率e」、「電源種類別CO2排出量係数f」「電力消費量g」「燃料種類別CO2排出量係数h」、「燃料消費量i」、「C2排出量n」


ステップ21では、取得されたデータを教師データとして用いて機械学習し、製品の種類毎に、工程毎の予測モデルを生成します。予測モデルは、工程の始期及び期間に基づいて、この工程で発生するCO2排出量を予測する学習済モデルです。



図4

CO2排出量データベースを示す図です。各製品の流通プロセスにおける複数の工程のそれぞれで発生したCO2排出量を各製品に関連付けて記憶します。



環境負荷相当額の決定処理(図7)

図7は、このシステムで実行される対象製品の環境負荷相当額の決定処理手順と処理内容を示すフローチャートです。予測モデルを用いて、製品についての複数の工程のうちの1以上の未終了の工程のそれぞれで発生するCO2排出量を予測し、CO2排出量の予測値に基づいて、製品の環境負荷相当額を決定します。



CO2排出量の実績値、CO2排出量の予測値及び環境負荷相当額は、事業者間のEC取引またはネットオークションのようなシステムにおける製品の取引で用いることが可能になります。これにより、製造者・販売者は、購入者・利用者に対し、購買または利用する製品の選定(意思決定)に必要なデータ(パラメータ)としてCO2排出量の実績値及び予測値を開示することができます。購入者・利用者は、開示されたCO2排出量を製品の購入時の判断条件の一つとすることができます。



以前から3R(リデュース、リユース、リサイクル)という取り組みはありましたが、「コスト」と見られることが多かった3R活動から発想を転換し、サーキュラーエコノミーによって、企業として付加価値を生み出す持続的な経済活動として捉え直す必要があります。


サーキュラーエコノミーは、一足飛びに実現できるものではなく、目指すべき姿に向けて移行していくという考え方が重要と思われます。サーキュラーエコノミーを通じて、中長期的な新市場創出・獲得につながり得るストーリーを描くことが重要になるのではないでしょうか。


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