真牡蠣の旬は10月~4月頃の冬。まさに今、旬の時期を迎えています。牡蠣などの貝類の身は貝殻に覆われているので、品質を評価するのは困難です。目利きの漁師や水産業者等のプロの目による勘と経験で行われています。今回取り上げたのは、貝類の貝殻を破壊することなく、貝類の品質を精度高く評価する発明です(特開2021-163278)。牡蠣で有名な広島県による出願です。
この発明では、貝類のX線画像を用いて貝類の身入りの程度を推定することにより、貝類の貝殻を破壊することなく、貝類の品質を精度高く評価することができます。
貝類の品質を精度高く評価できる指標としては、一般的に貝類の身入りの程度が知られています。「身入りの程度」とは、牡蠣の軟体部(可食部)の状態を総合的に表す指標でのことです。この発明では、身入りの程度を「身入り度」と称し、軟体部の全体に対する外観が透明な部分の割合に応じて、どの程度の身入り度かが特定されるものとします。また、身入り度が高い牡蠣の品質を「良品」で表し、身入り度が中程度の牡蠣の品質を「通常品」で表し、身入り度が低い牡蠣の品質を「不良品」で表します。
品質情報は、牡蠣の身入り度の指標となる、牡蠣の特性を示す情報です。
この発明では、「全湿質量(TWW)」および「乾燥質量(BDW)」が品質情報となります。
マハラノビス距離と閾値とを比較することにより、貝類の貝殻を破壊することなく、貝類の品質をより精度高く評価します。
TWW・BDW推定値T・B、ならびに、平均TWW・BDW実測値Tave・Baveを用いて、マハラノビス距離MDを算出します。マハラノビス距離MDは、TWW・BDW推定値T・Bに対する、不良品と評価された牡蠣のTWW実測値−BDW実測値の分布からの距離のことです。不良品と評価された牡蠣のTWW実測値−BDW実測値の分布を「基準データ群」とします。
「基準データ群」を用いてマハラノビス距離MDを説明すれば、マハラノビス距離MDとは、TWW推定値TとBDW推定値Bとの相関が、「基準データ群」を構成するTWW実測値とBDW実測値との相関にどれだけ近似しているかを定量的に表す尺度となります。
したがって、
(図1・2、図4、図5)
上記の品質評価では『所定の推定式』を用います。貝類のX線画像を解析して取得した第1画像パラメータを『所定の推定式』に代入し、算出して得た品質情報のスコアに基づいて貝類の品質を評価します。この発明では、単位空間サンプルおよび信号サンプルを用いて算出された基準化第1画像パラメータおよび基準化実測値に基づいて、所定の推定式を生成します(図6、図7)。
単位空間サンプルおよび信号サンプルを用いて算出された基準化第1画像パラメータおよび基準化実測値に基づいて、所定の推定式を生成します。そのため、品質評価の対象となった貝類のX線画像から取得された複数種類の第1画像パラメータのいずれかに、特殊要因による異常値があったとしても、当該異常値がスコアに及ぼす影響を低減することができます。したがって、品質評価の対象となった貝類の特有の事情にあまり左右されず安定的にスコアを算出できることから、貝類の貝殻を破壊することなく、貝類の品質をより精度高く評価することが可能になります。
野菜や果物と同じように、水産物にもある程度の旬はありますが、その年の気候や地球温暖化の影響もあり、水産物の旬は微妙に変わります。「あの漁場の貝はまだ成熟が足りないから、明日はもう少し青森側のものを仕入れよう」など、目利きの漁師や水産業者等のプロの目の勘と経験による微妙な調整が行われています。
近年では、水産庁は、ICT等の先端技術を利用して、水産資源の評価・管理や生産性の向上を目指す「スマート水産業」の社会実装向けた取組を推進しています。