リスキリングを促すために、ターゲットの役割にスキルを移行させる


最近、リスキリングという言葉をよく聞きます。リスキリング(Reskilling)とは、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させることです。近年では、長引くコロナ禍の影響で、DX(デジタルトランスフォーメーション)がより促進されるようになり、DXに対応するための人材戦略としても注目されています。今回注目したのは、ユーザの現在のキャリア配置、スキル、教育などに基づいて、ユーザがターゲットとなる仕事の役割を取得するための最良、最短、または最も包括的なパスを識別することができるスキル獲得プラットフォームに関する発明です(US20210256644、Accenture Global Solutions)。


リスキリングに向けた取り組み

IoTやビッグデータ、AIの活用によって、今ある仕事のデジタル化・自動化が進み、従来は人間が行っていた労働の補助・代替などが可能となるため、多くの労働者の仕事が消失することが予想されています。しかし、省力化の影響で仕事を失う人が増える一方で、仕事のデジタル化・自動化に対応できる高度な技術を持った人材は不足しており、新たな人材確保にかかるコストも課題となっています。そこで、既存の人材に対して新技術に対応できる能力開発を行うリスキリングによって人材不足を解消する取り組みが、世界各国の企業ですでに始まっています。


特に、近年では、デジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えています。リスキリングは「これからも職業で価値創出し続けるために」「必要なスキル」を学ぶ、という点が強調されます。リスキリングによって、職を失う人材を新たな雇用が生まれる部門へ円滑に労働移動させることができれば、採用コストの削減のみならず、これまで既存人材が作り上げてきた組織独自の文化を継承できるメリットもあります。


(参考)経済産業省:デジタル時代の人材政策に関する検討会
リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流―
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf


潜在的な労働者を、成長業界で必要なスキル取得に導く

この発明は、ユーザの現在のキャリア配置、スキル、教育などに基づいて、ユーザがターゲットとなる仕事の役割を取得するための最良、最短、または最も包括的なパスを識別することができるスキル獲得プラットフォームに関する発明です(US20210256644、Accenture Global Solutions)。

高度に技術的に急成長している業界において、隣接するスキルセットを持つ潜在的な労働者を、生産的に仕事を引き受けるために必要な追加スキル取得に導くことは課題です。対象となる役割を取得するために必要なスキル、経験、資格、教育が特定された場合でも、労働者がこれらのスキル、経験、資格、教育を取得して働く準備をするために、パスターゲットの役割が不明確な場合があります。そのため、労働者は、インターネット検索でターゲットの役割を調査するのに時間を費やしてしまう可能性があります。


類似性メトリックに基づいて、類似するキャリアパスを識別する

この発明は、ユーザの各ベクトルと、ターゲットの役割で働いた別のユーザの各ベクトルとの間のベクトル距離を決定することにより、ユーザとターゲットの役割との距離を算出し、ターゲットの役割を獲得するためのパスを推定します。


データストアに複数のユーザのキャリア表現を格納し、ターゲットの役割、ターゲットスキル、または別のタイプのターゲットキャリアを取得することに関心のある別のユーザに類似したユーザを識別します。例えば、Fig.1Bでは、類似性メトリックに基づいて、ユーザのキャリアパスに最も類似したキャリアパスを有するユーザのサブセットを識別します。ユーザのキャリア表現(例えば、ユーザのキャリア表現に含まれるベクトル)に基づいて、ユーザのサブセットを識別します。ユーザがデータストアにキャリア表現を保存していない場合、ユーザのキャリア表現を生成する場合があります。ユーザのサブセットは、ユーザのキャリアの現在の時点までの同じまたは類似のキャリアパスまたはキャリア進行を有する他のユーザの場合もあります。


データセットのフィルタリングでは、現在ターゲットの役割に従事しているユーザ、その役割でしきい値期間(例えば、5年、10年など)従事したユーザ、最近ターゲットの役割に移行したユーザ(例えば、過去1年以内、過去6か月以内など)などの基準に基づいて、データセットをフィルタリングします。


スキル習得のためのパスを識別するプロセス


Fig.5は、スキル習得のためのパスを識別するプロセスのフローチャートです。

  • ユーザのターゲットの役割を識別する(510)
  • 複数のユーザのキャリア表現に基づいて、ターゲットの役割で働いた複数のユーザを識別する(520)
  • ユーザのベクトルおよびターゲットロールで働いたユーザのベクトルに基づいて、ターゲットの役割で働いたユーザの類似性メトリックを生成する(530)
  • ターゲットの役割で働いており、ユーザと同様のキャリア軌道を有するユーザのサブセットを識別し、ユーザのサブセットは、類似性メトリックしきい値を満たす類似性メトリックに関連付けられる(540)
  • 複数のスキルグループを生成するためにターゲットの役割で働いたユーザのベクトルおよびユーザのサブセットのベクトルをクラスタリングする(550)
  • 複数のスキルグループ間のリンクを表す有向ネットワークグラフを生成する(560)
  • ユーザに関連付けられた第1のスキルグループと、ターゲットロールに関連付けられた第2のスキルグループとの間のパスを識別する(570)
  • パスに含まれるスキルを取得するためにユーザをクラスに自動的に登録し、パスに含まれる役割に関連する求人を自動的に識別し、自動的に送信する(580)

現在のスキルセットデータに基づいて知識グラフを作成し、最適パスの記述的分析を生成し、最適パスのパス長を推定し、最適パスの難易度または最適パスの発生頻度を推定します。



世界的にもリスキリングは注目されており、先進的企業(AT&T、Amazon、ウォルマートなど)では、リスキリングに積極的に取り組んでいることが注目されています。リスキリングも含めた教育には、時間とお金がかかります。実際には、中小企業ではなかなか余裕を持ちづらく、企業間格差が広がる原因にもなりかねません。リスキリングのための共通プラットフォーム化など、多くの働く人がリスキリングに取組めるような仕組みが重要になると思われます。

Invention to Businessデータマップ 特許レポート オンラインショップ