音声でこころの状態がわかる


誰かと話をしている時、その人の口調や声の大きさなどから、「今日はとっても元気だな」とか、「自信がなさそうだな」、「なんだか機嫌が悪そう」などと感じた経験はありませんか?最近のWEB会議では、通信回線の圧迫を防ぐためにビデオオフで実施することも少なくないですが、声だけでも、打合せ相手が集中しているかどうか、打合せ内容に興味を持っているか、かなり推測することができます。今回取り上げたのは、人間の声を分析して、うつ状態やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病などの人間の精神疾患を、簡便な方法で判定する発明(WO2021132289、生命科学インスティテュート、PST)です。


こころの状態を調べるには

現代社会は様々なストレスに満ちており、こころの健康管理が重要になっています。最近では、新型コロナウィルスによる長期の自粛やリモートワーク、感染への不安、経済的な打撃、漠然とした不安などが原因で、うつ状態(気分が落ち込む、やる気が出ないなどの症状)になる、“コロナうつ”も問題になっています。


ストレスや抑うつ状態を調べるには、自己記入式のアンケートを用いるのが一般的です。しかし、アンケートはあくまでも被験者の主観に基づくものであって、本人がストレスを自覚していなかったり、過小評価して我慢していたり、故意に隠したりする「報告バイアス」があり、必ずしも客観的な指標に基づくものではありません。現代医学では、ほぼすべての領域に画像診断やバイオマーカーなどの科学的・客観的な指標が存在しますが、精神科領域では、精神科医やセラピストのカウンセリングによる診察が主であり、特定の精神状態の疾患を判定するための客観的な指標はありません。カウンセリングでは、患者の体の動きや声の出しかた、表情などが情報源となっています。例えば、抑うつがあると、口数が減り、声は小さくなり話す速度が遅くなること等が経験的に知られていましたが、特定の疾患を判定するための指標には至っていない状況です。


音声でこころの状態がわかる

今回取り上げたのは、人間の声を分析して、うつ状態やアルツハイマー病、パーキンソン病などの人間の精神疾患を、簡便な方法で判定する発明です(WO2021132289、生命科学インスティテュート、PST)。この発明では、音の強さ(Intensity)に関連する音声特徴量を用いることにより、特定の疾患の可能性があること、またその疾患の重症度を推定します。スマートフォンを用いることにより、誰でも、どこにいても、短時間で、非侵襲的に、他人に知られることなく、簡単に測定し疾患を推定することができます。


スマホでこころの状態を簡単にチェックする

特許明細書では詳しく記載されていませんが、この発明のポイントは、スマートフォンを使用する点です。スマートフォンの普及により、一人ひとりがスマホを持つ時代になりました。特別なデバイスやセンサを使用せずに、いつでも、どこでも、誰でも、簡単にこころの状態をチェックすることができます。毎日のチェックを習慣にすれば、自分が気が付かないようなこころの不調のサインにも気づくことができ、早期発見、早期治療につながるかもしれません。


こころの状態を推定するフロー

図3は推定システムのフローを示します。主なステップは下記です。


  • 音声データの取得(S101~S104)
    はじめに、音声データを取得します。この推定システムでは、被験者の発話の意味や内容で精神・神経系疾患を推定するものではありません。取得する音声データは、発話時間の合計が2秒~300秒程度あれば何でも使用できます。例えば、特定の感情を含まない「いろはにほへと」や「あいうえおかきくけこ」など。なかでも、濁音(口蓋音)であるガ、ギ、グ、ゲ、ゴ、半濁音(口唇音)であるパ、ピ、プ、ぺ、ポ、及び舌音であるラ、リ、ル、レ、ロを含む「パタカ」の繰り返しが好ましく、「パタカ」を3秒~10秒、あるいは5回~10回程度繰り返す言葉が用いられます。

  • 被験者のメンタル値の算出(S105~S107)
    被験者のメンタル値とは、被験者の疾患の予測値を表します。ここでは、音響パラメータを抽出して生成する音声特徴量の組み合わせからなる特徴量のことです。被験者の音声データと推定プログラムに基づき、疾患の予測値を算出します。

  • 疾患の推定(S108)
    上記ステップで抽出した被験者のメンタル値単独、または、別に取得した被験者の健診データとメンタル値の組み合わせを用いて、疾患を推定します。

  • 助言データの出力(S109~S112)
    疾患に対する助言データを選択し、出力します。助言データとは、被験者が疾患を予防、または疾患の重症化を回避するための助言です。

病態解析の方法

本発明による音声を用いた病態解析の方法が示されています。

実施例1~3において、音声特徴量の算出、ピーク位置のばらつき、うつ病の検査指標として広く用いられているBDI(Beck Depression Inventory)と音声特徴量の相関関係を検証、HAMD(ハミルトンうつ病評価尺度)と音声特徴量との相関関係の検証内容とその結果が記載されています。ここでは省略しますが、ご関心のある方は特許明細書をご参照ください。




ストレスフルな現代社会では、うつや精神疾患に誰がなってもおかしくない状況です。心身ともに健康であるためにも、日常生活における心身の微妙な変化をキャッチし、健康な状態を維持することがますます重要になると思われます。病気になってからではなく、病気になる前の予防・未病のために、人間が気付かない変化やパターンを分析する、データに基づくデジタルヘルスの進展が期待されます。

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