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AIを活用して児童虐待の兆候を判別する


児童虐待は非常に大きな社会問題のうちの1つです。児童虐待に関する問い合わせ件数が増えるに伴い、児童相談所等が極力早期に検知し、悲惨な結果になるのを未然に防止するべく努力が行われています。しかし、児童相談所の現場での負荷が大きいなどの現実問題があります。今回取り上げたのは、親による子供への虐待の兆候を高精度に判別する子供虐待兆候判別プログラムに関する発明です(特開2021-068333、ASSEST)。


疲弊する児童相談所

「平成29年度に全国で13万件超と、過去最多を更新した児童虐待の対応件数。平成2年度には約1,100件だったのが、約30年で100倍以上に膨らんだ。前出の児相でも、年間約1,500件の虐待相談に20~25人の児童福祉司で対応。1人当たり60件以上の相談に向き合っている。対応する児相の手が足りていない」これは、2018年8月31日の産経新聞の記事抜粋※です。今から4年前ですから、現在はもっと深刻になっている可能性があります。


産経新聞「THE SANKEI NEWS」2018年8月31日

厚生労働省資料「平成29年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>」

児童相談所の職員や学校の教員等のような人手による虐待の検知のみでは見落としがあり、限界があります。また、虐待通告受理時には多くの情報が不明であり、保護者が事実とは異なる申告をしたり、子どもが不安から何も話さなかったりすることもあります。そのため、虐待の重篤度、将来的な再発率、一時保護の必要性などを考慮した意思決定を迅速に行うことは専門家にとっても難しいものがあります。


AIを活用して、児童虐待の検知の精度を向上させる

AIは、膨大な数の過去事例に照らし合わせて、これまでに発生した典型的なケースであれば、高い精度で未来を予測できるようになってきている。この発明は、AIを活用して、特段のスキルや経験が無くても、人手に頼ることなく、親による子供への虐待の兆候を高精度かつ自動的に判別することを目的とした、子供虐待兆候判別プログラム及びシステムの発明です(特開2021-068333、ASSEST)。

図1は、子供虐待兆候判別システム1の全体構成を示します。
情報取得部9、判別装置2、データベース3で構成されています。


情報取得部

利用者が各種コマンドや情報を入力するためのデバイスであり、キーボードやボタン、タッチパネル、マウス、スイッチ等により構成されます。テキスト情報だけでなく、音声認識のためのマイクロフォン、画像を撮影するカメラ、文字認識のためのスキャナでも構いません。また、温度や湿度、照度等の環境情報を取得したり、身体データ(例えば体温、心拍数、血圧、歩数、歩く速度、加速度)を取得したりする機能があっても構いません。


データベース

データベース3は、子供虐待兆候判別を行う上で必要な様々な情報が蓄積されます。具体的には、過去の子供の参照用画像情報、過去の子供の動画像から子供の行動パターンの類型に当てはめた参照用行動パターン情報、子供に関する参照用属性情報、子供の家庭環境に関する参照用家庭環境情報、子供から聴取した虐待内容に関する参照用聴取情報等が、子供への虐待の可能性の度合との関係において蓄積されています。つまり、データベース3には、このような参照用画像情報に加え、参照用行動パターン情報、参照用属性情報、参照用家庭環境情報、参照用聴取情報と、子供への虐待の可能性の度合が互いに紐づけられて記憶されています。


判別装置

判別装置2は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)等を始めとした電子機器で構成されているが、PC以外に、携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末等、他のあらゆる電子機器で具現化されるものであっても構いません。ユーザは、この判別装置2による探索解を得ることができます。





虐待可能性の評価

図3は、子供虐待兆候判別システムにおける動作を示します。


参照用画像情報と、子供への虐待の可能性との3段階以上の連関度が予め設定されていることが前提となります。

参照用画像情報(静止画または動画)とは、子供の画像を撮像することにより得られた情報であり、また、この画像情報を解析することで初めて得られる情報も含まれます。
この画像は学校の教室に設置されたカメラ、校庭に設置されたカメラ等を通じて撮像されるもの、個々の子供に対してターゲットを当ててカメラにより撮像した画像なども考えられます。
この参照用画像情報は、子供の顔や露出した手足について撮像した画像を解析することで子供の顔又は手足の傷、腫れ、痣の状態を特定したり、子供の衣服の状態を撮像した参照用画像情報を解析することで衣服の汚れの状態を検出したりすることも考えられます。




判別装置2は、このような図3に示す3段階以上の連関度w13〜w19を予め取得しておきます。
つまり、判別装置2は、実際の探索解の判別を行う上で、参照用画像情報と、その場合の虐待可能性の何れが採用、評価されたか、過去のデータセットを蓄積しておき、これらを分析、解析することで図3に示す連関度を作り上げます。


このような連関度が、人工知能の学習済みデータとなります。

このような学習済みデータを、以前の評価対象の子供を撮像した画像等と実際に判別・評価した虐待可能性とのデータセットを通じて作った後に、実際にこれから新たに虐待可能性の判別を行う上で、上述した学習済みデータを利用して虐待可能性を探索することとなります。
この場合、実際に判別対象の領域において子供を撮像した画像情報を新たに取得します。新たに取得する画像情報は、上述した情報取得部9により入力されます。
画像情報は、子供の外観を撮像することで取得します。この判別方法は、上述した参照用画像情報と同様の手法で行っても構いません。




痛ましい児童虐待のニュースを見るたびに、「もっと早く見つけることができればよかったのに」と強く思います。児童虐待の兆候を早期に発見し、迅速に対応するためのAI活用がもっと進むことを願います。同時に、人間が気付かない危険、事件や犯罪に巻き込まれないように私たちの安全な暮らしをAIが守る、そんなAIによって支えられる生活が来るかもしれません。

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