食品ロスを削減するための動的な価格設定


夕方のスーパーで、お惣菜や生鮮食品などの賞味期限が短い食品を対象に、「30%引き」等の値下げシールを貼っている光景をよく見かけます。売れ残りを防ぎ、食品廃棄を削減する工夫です。しかし、店員さんが品物の消費期限を確認しながら、手作業で値下げシールを貼るのは大変な作業です。今回注目したのは、小売店における動的な価格設定に関する発明です。動的な値札により食品廃棄物を削減し値下げを最適化、小売価格を管理する方法(US20210081980、WasteLess)です。



年間約1/3の食料が廃棄されている

「食品ロス」とは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品のことです。世界で1年間に生産される食糧は約44億トンであり、そのうち約13億トンが廃棄されています※1。世界では飢餓に苦しんでいる人々がいる一方で、全体の約約1/3に相当する食料を廃棄しているというのは、矛盾しており大きな衝撃です。

日本の食品廃棄物等は年間2,550万トンだそうです。その中で本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間612万トン(平成29年度推計値※2)で、日本人の1人当たりの食品ロス量は1年で約48kgになります。これは日本人1人当たりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じ量です。これも、とても衝撃的な数値です。


※1国際連合食料農業期間(FAO)「世界の食料ロスト食料廃棄」に関する調査研究報告(2011)

※2農林水産省「食品廃棄物等の利用状況等(平成29年度推計)」


動的な値札により食品廃棄物を削減し、小売価格を管理する

食品廃棄物を削減し、リアルタイムで動的な値札により値下げを最適化、小売価格を管理する(US20210081980、WasteLess)というのが今回取り上げる発明です。AIを活用した動的な価格設定を通じて、スーパーマーケットやオンライン食料品店が生鮮食品の価値を最大限に引き出し、食品廃棄物を削減するのに貢献します。


動的価格設定エンジン(124)には、主に2つの計算要因が含まれています(Fig.1)。

  • 商品の棚状態に関連する価格計算要因
  • 商品の将来の在庫に関連する価格計算要因




これらの計算要因には、商品の有効期限、類似商品の数量、商品のブランドの販売力、商品のカタログ価格、商品の最低価格、商品が販売される曜日・時間、商品の需要曲線、商品が割引されるかどうか、商品がパッケージ化されているかどうか、商品に競合他社がいるかどうか、などが考慮されます。




動的価格設定は、主に商品の有効期限で設定されます。

  商品の有効期限 商品の価格
第1の例 第2の期間が第1の期間よりも有効期限に近い 第1の価格>第2の価格
第2の例 第2の期間が第1の期間よりも有効期限に近い 第2の価格>第1の価格


《第1の例》

商品の有効期限に近いかどうかで設定されます。例えば、第2の期間は、第1の期間よりも商品の有効期限に近いので、第1の価格は第2の価格よりも大きくなります(第2の価格の方が低くなる)。一般に、商品の販売日が商品の有効期限に近いほど、商品の最適化価格は低くなります。


《第2の例》

しかし、第2の期間が、第1の期間よりも商品の有効期限から近い場合でも、商品の第2の価格は商品の第1の価格よりも高くなることがあります。これは、間もなく期限切れになる商品の価格を引き下げた時(たとえば、明日)に発生する可能性があり、そのような時に、店舗が新しい商品を棚に補充し、新鮮な商品である可能性がある場合です。この第2の例は、この発明の動的な性質を示しています。


また、商品の有効期限以外だけでなく、様々な要因を含めて計算して、商品価格の最適なセットを決定します。


食品廃棄物を削減することは、消費者、小売店、サプライヤーに好循環を与え、環境と収益の両方に貢献します。ダイナミックプライシングは、持続可能なブランディングを高めることにつながるでしょう。


国連のSDGs(持続可能な開発目標)は地球規模の課題を提示しています。SDGsの中で、私が個人的に日常的に取り組めそうだなと思っているのが「目標12 つくる責任、つかう責任」の中にある、食品ロス削減です。“食べられる分だけを買う、買ったものは食べきる”というシンプルなことを実践するだけでも、食品廃棄削減につながります。コロナ禍で、家で過ごす時間が増え、料理を楽しむ(せざるを得ない)人も多いと思いますが、ぜひ、実践してみてはいかがでしょうか。


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