コロナ禍により、外出を控えオンラインショッピングが増えたという人も多いでしょう。デジタル化、非接触などを背景に、電子商取引(eコマース)の市場規模が拡大しています。その一方で、eコマースは返品が簡単なこともあり、商品の返品率の上昇が問題となっています。今回注目したのは、特定の商品を返品したい顧客Aと、その特定の商品を購入したい顧客Bを接続し、AからBへダイレクトに商品を発送することが可能なシステムの発明です(US20200402001、SHOPIFY INC.)。
2019年における全世界のeコマース市場規模(BtoC)は3.53兆ドル(約367兆1200億円)にのぼります。その後も市場規模の拡大が予想されており、2023年には全世界で6.54兆ドル(約680兆1600億円)まで上昇すると予測されています※。
※経済産業省 令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722003/20200722003-1.pdf
eコマース市場が拡大する一方で、返品率の上昇が問題になっています。返品手続きを消費者とのつながりを深める機会だと捉えている小売店も多く存在します。eコマースでは、消費者が実物を手に取って確認することができないので、消費者にとって、満足できない商品を返品できることかどうかは購入決定の重要な判断要素になるからです。その結果、eコマースの返品率は実店舗の3倍になるなど、eコマースが台頭するにつれ、返品の量は増え続けています。
小売業やファッション業界全体で、SDGs(持続可能な開発目標)が話題を呼んでいます。返品も例外ではありません。返品輸送には、梱包や輸送における二酸化炭素排出が伴います。高級服飾ブランドであるバーバリーは、過去に返品や不良在庫など3,460万ドル以上の売れ残り商品を燃やしていたことが発覚しました。高級ブランドが高級路線を維持するために、返品や売れ残りは焼却処分にしてしまうほうが得策と判断したためです。これは消費者から大きな反発を受けました。このように、返品による廃棄物に注目が集まっているため、小売事業者は返品対応に関する消費者への満足度を高めることと、環境負荷の軽減も考慮することなど、社会的な責任が求められます。
eコマースの拡大 → 消費者の利便性向上 → 返品の増加 → 環境へのダメージと、eコマースによる新たな社会課題が浮かび上がってきました。返品が少なくなればもちろん良いのですが、eコマースの今後の拡大傾向を考えると、返品を無くすことを考えるだけでなく、返品が増えることを前提として、eコマース全体で環境負荷を下げるように考えることも重要ではないでしょうか。
そこで、今月注目したのは、特定の商品を返品したい顧客Aと、その特定の商品を購入したい顧客Bを接続し、AからBへダイレクトに商品を発送することが可能なシステムの発明です(US20200402001、SHOPIFY INC)。「顧客から顧客への返品プロセス」は最初の顧客から2番目の顧客への商品の配送を容易にし、販売者の配送と再梱包のコストを削減できる可能性があります。
Fig.4、Fig.5には、従来の返品プロセスと「顧客から顧客への返品プロセス」との比較が示されています。ロサンゼルスにいる商人、シカゴにいる顧客(買い手A)、ニューヨークにいる別の顧客(買い手B)を示しています。
従来の返品プロセス(Fig.4)
「顧客から顧客への返品プロセス」(Fig.5)
Amazon Primeが普及し無料返品が当たり前になり、メルカリで買ったものをすぐに売るのが普通になるなど、返品も選択肢の一つであって、特殊とか珍しく感じない消費者が増えてきているのかもしれません。返品を前提としたeコマースのビジネスモデル、社会全体のエコシステムにつながる新たな商機が生まれるのではないでしょうか。