リモート理学療法


この数か月の間で、ウィルスに感染したくないという理由で、病院の診療控えが増えているそうです。日本はパンデミックによる医療崩壊をかろうじて防ぐことができました。しかし、潜在的な疾患予備軍の増加によって、じわじわと真綿で締めるような医療崩壊につながる恐れがあります。感染症の拡大予防や医療費の圧迫、患者の利便性といった様々な観点から、リモート診療のニーズが高まっています。今月取り上げるのは、自宅でのリハビリテーションを可能にする、身体活動の定量化とモニタリングに関する発明です(US2020/0160044、Reflexion Health)。



リハビリの自粛が広がっている

緊急事態宣言を受けて、新型コロナウィルス感染症のクラスター(集団感染)発生の危険性から、デイサービスなど通所型の介護事業所では自主休業の動きが広がりました。リハビリ特化型デイサービス(身体機能の改善や機能訓練に重点)を利用している高齢者は、リハビリの自粛によって引きこもりがちな生活が続き、身体機能の衰えが心配されています。

リハビリテーションは、患者の疾患や障害により失われた身体機能を回復、または、患者の持つ能力を最大限に発揮させ、患者や家族が自分らしく生活を送れるようにすることを意義としています。リハビリテーションは患者のQOL(Quality of Life)改善に大きな役割を果たしています。感染症の拡大予防や医療費の圧迫、患者の利便性といった様々な観点から、今後は、リモートによるリハビリテーションの検討が進むと思われます。



リモート理学療法を目指して

この発明は、捕捉した患者の運動データに基づいて、身体活動の定量化とモニタリングを行う発明です(US2020/0160044、Reflexion Health)。

この発明では、定量化された身体活動データを用いて身体活動モデルを生成し、身体活動の主要な状態を認識・特定します。身体活動モデルは、特定された状態を理想的な身体活動状態シーケンスの状態と比較して、被験者の身体活動のパフォーマンスをスコアリングし、被験者に身体のパフォーマンス品質についてライブフィードバックすることができます。これにより、現場の専門家(理学療法士など)を必要とせずに、ライブ監視と被験者へのフィードバックが可能になります。



身体活動状態シーケンス(身体セグメント、関節)

身体活動状態シーケンスの各状態は、対象の頭、首、胴体、腕、手、指、脚、足、骨など、対象の身体の個々のセグメントを参照して定義できます。身体活動は、関節によってさらに定義されます。関節は隣接する2つの身体セグメント間の連結点であり、1つの身体セグメントを別の身体セグメントと連結させることができます。場合によっては、被験者に関連付けられた個々のセグメントと関節を組み合わせて、スケルトン表現などのデジタルボディ表現や、アバターなどの他のより特徴的な表現を形成することができます。

被験者の関節位置は、関節位置を直接提供しない追跡データに基づく数学的演算を使用して導出されます。例えば、深度感知カメラなどによる3D点群システムは、関節位置を提供しませんが、機械学習アプローチを使用して3D点群から関節位置を取得することができます。マーカーベースのシステムでは、関節にマーカーが常にあるとは限りませんが、センサーの位置を考慮して、関節の位置を把握するために身体の運動モデルを使用できます。

Fig2は、直立の状態1から、片足を上げた状態2に進み、元の直立の状態1に戻る身体活動シーケンスの身体活動状態(この例ではポーズ)の違いを示すモーションキャプチャの視覚化例を示しています。



身体活動状態の間の微分変数

Fig.3は、身体活動シーケンスの主要な状態を区別するために、状態間微分変数を決定する例を示しています。Fig.3の状態2に注目すると、状態1と比較して、状態2を識別するのに最も関連する身体状態間の微分変数のサブセットが存在することが分かります。この例では、基準面316からの関節302の角度、基準面316からの関節304と306の距離、身体セグメント308と312に関連付けられている単位ベクトル方向310と314は、状態1と状態2の間で最も変化しているため、状態2を最も決定的に決定します。

身体活動シーケンスにおけるすべての状態ではなく、Fig.3の状態1や状態2のように、状態のサブセット(主要な状態)を追跡することで、特定の身体活動を調整することができます。ここでは、状態1と状態2の間の微分変数を決定するときに、身体セグメント320と324のわずかな変化は考慮しません。



キー状態に基づく身体活動モデルのトレーニング

Fig.4は、主要な状態に基づいて身体活動モデルを定義するためのフローを示しています。402はアクティビティの状態です。Fig.2とFig.3は、身体活動モデル408を訓練するための主要な状態として使用されます。

複数の状態間微分変数404は、状態1と2における追跡可能な身体セグメントおよび関節位置などのモーションキャプチャデータで識別されたデータに基づいて決定されます。その後、状態間微分変数404は、分類器406によって分類され、状態1と2を区別するのに最も効果的な状態間微分変数のサブセットを識別します。各主要な状態について識別された、統計的に有意な状態間微分変数は状態特性メトリックと呼ばれ、最終的な分類子は、身体活動モデル408に示すように、各主要な状態に関連付けられた状態メトリックを使用して定式化されます。

状態1と2に関するトレーニングデータは、身体活動を行う被験者のセットから収集され、特定のトレーニングデータは、各主要な状態に関連するものとして識別(例えば、タグ付け)されます。トレーニングデータが一連の被験者からのものである場合、状態間微分変数は、被験者ごとに各状態で計算され、一緒にプールされます。分類器は、身体活動のさまざまな主要な状態の状態間微分変数値を比較して、どの状態間微分変数が状態の検出と分類に重要な情報を提供するかを決定します。さまざまな被験者からトレーニングモーションデータをキャプチャすると、身体活動モデルのロバスト性が向上し、さまざまな被験者を追跡できるようになります。

このシステムを活用して、活動追跡モードのグラフィカルユーザーインターフェイスの例がFig.10です。被験者の実行した身体活動シーケンスが表示されます。



新型コロナウィルスの影響で、思わぬ形で働き方改革が進みました。様々な試行錯誤はあるとは思いますが、会社に行かなくてもテレワークで仕事ができる、という意識が浸透し始めています。それでは、リモートによる診療やリハビリテーションはどうでしょうか。必ずしも、病院やデイサービスなどの限られた場所で実施しなくても、理学療法士が付き切りでなくても、テクノロジーを活用してリモートで対応できることが増えていくと思われます。しかし、人間同士が対面して心を通わせる安心感、相手を気遣う思いやりなどは、リモートではまだ実現できていないように思います、医師は患者の歩き方や話し方の変化、においにまでも意識を配り、患者の異変に気が付くそうです。超高齢化社会を迎えるにあたって、一人ひとりが自分らしく生きることができるための選択肢が、デジタル技術によって広がると良いと思います。