大学院の恩師と近況のやり取りをしていたところ、「大学では、講義やゼミ、会議は全てオンラインになり、この2か月間はキャンパスに行っていない。いまは、夏の大学院入試をどうするか、という話をしている」と聞きました。確かに、WEB会議システムやチャットツールのおかげで、オンライン講義はどんどん広まっています。しかし、試験となると、本人確認や不正防止などの課題がありそうです。今月の注目発明は、受験者が他人から援助を受けていないこと、試験中に不正行為をしていないことを保証して試験を行うシステムの発明です(US2020/0118456、Intelligent Technologies International)。
知識習得の歴史は、技術革新と密接に関連しています。15世紀の印刷技術の発明によって、それまでの口伝や写本による知識習得が、出版物を通じて行うことができるようになりました。現代では、ITとインターネット技術により、今までは教育機関に入学しなくては受けられなかった知識を、いつでも、どこでも、誰でも、知識を得ることができるようになりました。MOOC(大規模公開オンライン講座)やYouTubeなどはその一例です。在宅自粛中に利用した人も多いのではないでしょうか。
しかし、講義を受けるだけであれば、オンライン化で私たちは十分に恩恵を受けていますが、試験となると状況が異なってきます。
例えば、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で学位を得るための学費は20万ドル(約2千万円)掛かります。MITの学位取得者の初任給が年間10万ドル(約1千万円)クラスといわれていますので、MITで学位を受けることは、将来の高収入を得ることにつながります。そのため、学生にとってMITの学位の価値は絶大です。マスターすべき知識がインターネットで無料で入手できるようになったにもかかわらず、MITなどの大学がオンライン学生に学位を付与するのに躊躇する最大の理由は、大学側が、学生のコースワークの習熟を実証するためにさまざまな試験を実施した時に、学生が不正行為をしなかったことを確実にすることが難しいからです。
また、試験が教室で行われるときでも、不正行為が起こり得ることはよく知られています。例えば、中国では、大学入学は学生が1回の試験で受け取るスコアによってのみ決定されます。そのため、学生がカンニングしようとする動機が非常に大きくなります。
この発明は、受験者が他人から援助を受けていないこと、試験中に不正行為をしていないことを保証して試験を行うシステムの発明です。受験者本人であること、受験者が他人から支援を受けていないこと、この2つを証明することができれば、世界中のどこにいても、誰でも、試験を受けることが可能になります。
未知のウィルスと遭遇し私たちの生活は大きく変わりました。ウィルスとの闘いはまだ続きそうです。しかし、歴史を振り返ると、社会の変化と生活様式の変化、それに伴う新たな課題に対して、私たちは知恵と創造によって新たな解決策を生み出してきました。今回の災難に対しても、様々な取り組みによって、確実に次のステージに進んでいくことでしょう。