材料研究開発ノウハウを共有・再利用する


研究開発に携わっている読者の皆さまは、独自の研究開発ノウハウを蓄積されていると思います。今回ご紹介するのは、材料の研究開発の支援システムの発明です(US 20200089706、HITACHI)。なお、この発明は今月の国内特許ヘッドラインにも含まれています(特開2020-042704、日立製作所)。



研究開発の重要な資源は、研究者

製造業の製造現場においては、データを基点とした運用システムが取り入れられています。その一方で、製品に採用する材料やその材料を組み合わせた製品を生み出す研究開発現場では、研究の各工程を人手で運用しているため、作業工程、ノウハウ、失敗などの情報共有が遅れています。研究開発の重要な資源は、研究者である人的資源です。その研究者の頭の中に蓄積している、研究工程やノウハウ、失敗などの重要な資源を共有・再利用できれば、研究者の負担が軽減でき、研究開発の効率が高まる可能性があります。



この支援システムでは、研究者が研究開発前に作成する研究計画書や、研究終了後の研究報告書を自動的に生成します。

これによって、研究者の資料作成時間を短縮し、研究開発に充てる時間を増やすことができます。
生成した情報は、ある程度の専門知識がある人なら理解することができ、検索して利用できるようデータベース化します。
さらに、研究者本人が蓄積情報を利用するために、研究開発情報を実験計画から評価結果まで紐付けし、その情報を必要なときに引き出すことができるようにします(Fig.1)。

この材料開発支援システムでは、下記の要素を用いています。


  • 研究者から材料の試作計画として入力された入力情報

  • キーワードツリーを構成するキーワード

  • 試作計画を識別するための試作ID

  • 試作IDを付与した入力情報とキーワードを紐づけたインデックス

  • 材料の研究開発の単位となる分類グループごとにツリー構造化されたインデックス



この材料開発支援システムの流れは下記のとおりです。


  • 研究開発分類グループごとのインデックスと、入力情報とが所定の関係にあるかを判定

  • 所定の関係にあると判定した場合、インデックスを用いた過去の試作計画を読み出す

  • 読み出された過去の試作計画を参照して新規試作計画を作成

  • 新規試作計画には、試作IDと試作計画で用いる材料を識別するための試料IDを付与

  • 新規試作計画を研究者の計画として出力(Fig.15)



キーワードツリーは、知識ツリー

この材料開発支援システムのポイントは、キーワードツリーの設定と、インデックス化ではないかと思います。これが適切に設定されていないと、過去の参照情報の意味がなくなってしまうからです。したがって、キーワードツリーは、研究者の持つノウハウ、つまり、研究者の知識ツリーに相当します。キーワードプロセスの例はFig.10、Fig.11が示されています。実際の運用においては、各企業の持つ技術的強みや、対象となる材料物質によって違いがあるでしょう。



Fig.10は化学プロセスの例です。

化学プロセスは、化学反応、混合、分離に大別されます。
例えば、純水に常温で固体の試薬を混ぜるプロセスの場合にこのツリーをたどると、混合、液体に溶解、水に溶解、室温、粉砕して混ぜる、となり、あらかじめツリー末端の「粉砕して混ぜる」に対応する文字数の少ないコード(例えば、粉砕)を作成しておき、このプロセスのインデックスとして保存します。

検索語で「粉砕して混ぜる」からツリー上流の「混合」までの単語を含む単語が指定されると、検索結果にこのプロセスが含まれます。





Fig.11は試作する材料の特性や性能の例です。

例えば、地球上の寒冷地で用いられる材料の場合は、「寒冷地動作(-40℃保証)」のインデックスを付けてキーワードツリーを保存します。
同じ材料が、安全や強度に関する特性も保証することもあるため、それぞれの特性に対応するインデックスを付与します。
この場合、一つの試作IDには複数のインデックスが付与されます。


これによって、研究者の頭の中に蓄積している、研究工程やノウハウ、失敗などの重要な資源を共有・再利用できれば、研究者の負担が軽減でき、研究開発の効率が高めることが可能になります。



新型コロナウィルスの猛威が続く中、研究開発部門も在宅勤務の対象となり、在宅勤務を余儀なくされている研究者も多いと思います。自宅では、研究所と同じ研究開発環境を再現することは難しいと思います。しかし、考え方を変えれば、研究者の頭の中に蓄積された貴重なノウハウを、知識ツリー化する絶好の機会ではないでしょうか。ウィルスはいずれ収束に向かうはずです。この期間をネガティブに捉えるのではなく、内部充実を図り収束後のスタートダッシュに向けた準備期間として、ポジティブに捉えてみてはいかがでしょうか。