サービスの送り手(従業員)のモチベーションを高める


今月の注目発明は人間のモチベーションを高める発明に着目しました。サービスを提供する企業の従業員、企業からサービスの提供を受ける顧客、それぞれのモチベーションを高める発明です。国内特許では従業員のモチベーションを高める発明(WO2019-235333、株式会社Be&Do)、米国特許では顧客のモチベーションを高める発明(US2020/0034878、FanThreeSixty)を紹介します。



企業の利益の源泉は“人間”

ビジネスは「利益=売上-費用」です。この計算において、最大の利益を上げるためには、売上を最大化させ費用を最小化させればよいことになります。従来の「ものづくり」時代には、企業は規模を競い、同じ製品を大量に生産することで費用を最小化させ、その製品を大量に売ることで利益を上げていました。

しかし、現代の成熟した社会では、モノづくりからコトづくりへ、サービス中心のビジネスに移行しつつあります。サービス中心のビジネスでは、従来の大量生産モデルは当てはまらず、売上を最大化させるためには、顧客一人ひとりに適した価値を提供する付加価値化が重要なカギとなります。

顧客一人ひとりに適した価値を提供するためには、企業と顧客とのインタラクティブな関わりが必要となります。現代のサービス中心のビジネスにおいては、サービスの送り手(従業員)も、サービスの受け手(顧客)も、どちらも人間です。送り手側の人間(従業員)、受け手側の人間(顧客)、両方のモチベーションが高まることで、企業に対する忠誠心や信頼感が高まり、企業の発展につながっていきます。つまり、企業の利益の源泉は“人間”であると言えるでしょう。



従業員が自律的に行動改善に取り組む

WO2019-235333は、目標となるモデルユーザの実績情報を提示することによって、診断者およびアドバイザ等に依存しなくても、ユーザ各々が自律的に行動改善に取り組むことができる発明です。

図2は本発明の行動改善システムの全体構成です。

従業員は1年間の個人目標を結果目標として設定します。

ポイントは、所定の期間にわたって達成可能と思われる「結果目標」と、結果目標を達成するために必要な「行動目標」に分けて考えることです。



図4に示すように、従業員Aは「結果目標」として年間売上高1,000万円を設定します。

そして、その結果目標を達成するために必要な「行動目標」として、1日当たり2件の新しい売上と、2時間の情報収集を具体的な行動として設定します。

つまり、年間売上1,000万円というだけでは目標が願望になりかねないため、売上につながる具体的な行動の洗い出し、その行動の今までの成功確率から具体的な行動を割り出します。



SNSと同じ仕組みで、従業員同士でやり取りを行うことができます(図6)。

従業員Aが5月14日に2件の新規販売と2時間の情報収集を行い、5月15日に2件の新規販売を行ったことに対して、他の従業員から「いいね」と「頑張れ」のメッセージが来ています。

これによって、従業員Aのモチベーション向上につながります。


モデルユーザとの比較参照

モチベーションを向上させるために、理想的なユーザであるモデルユーザを設定することも有効です。

モデルユーザは、目標としたい優秀な先輩や、負けたくない同期のライバルのような存在です。

モデルユーザは、従業員Aと同じ状況に属していて最高のパフォーマンスをしている人を選択します。

例えば、別のジョブカテゴリの同じ位置、同じジョブカテゴリの別のジョブの位置、同じ行動傾向などから最高のパフォーマンスを選択します。

従業員Aの目標情報と行動情報/結果情報と、モデルユーザの目標情報と行動情報/結果情報を一緒に提示することによって、従業員Aの情報とモデルユーザの情報を比較参照しやすくなり、両者の違いを明確に確認できます。

さらに、全体システムより、両者の差を分析し提示することもできます(図8)。



人づくりは、管理型から自律型へ

従来から「従業員の成長は企業の成長」という認識のもとに人事教育は行われてきました。一般に、企業や学校などの組織では、従業員が設定した目標の達成度を自己採点し、その上司または管理者が達成度をさらに決定することで、従業員の達成度を客観的に決定してするシステムが取り入れられています。また、従業員が自分の行動計画を設定し、設定された行動計画について自己診断を行い、診断結果に基づいて上司やアドバイザがアドバイスを行い、より質の高い行動改善を促進する行動改善システムも行われています。いずれも、上司またはアドバイザ等の管理や関与が必要な人事教育システムです。

これからのサービス中心のビジネスにおいて、また、複雑で多様に変化していくこれからの社会においては、誰かが従業員を管理するという管理型のではなく、従業員自らがモチベーションを高め成長を促す自律型の人づくりが重要になっていくと思われます。そして、それを支援するのが企業や教育機関の役割であり、社会の持続的な発展につながるのではないでしょうか。