分散倉庫と仮想在庫 ~商品の属性と需要、再分配の関係~


従来の物流においては、「物を運ぶ」側でサービスが組み立てられていました。今月の注目発明では、「運ばれる物」側に着目した2件の発明を取り上げます。第1の顧客が高需要商品の返品先を配送センターではなく第2の顧客宛にする分散倉庫の発明(US20190362308、Google)、薬局が他の薬局から低需要医薬品を購入することを促進する仮想在庫の発明です(US20190341139、Breckenridge Capital)。



「物を運ぶ」側からの対策

私たちのライフスタイルや消費行動の変化に伴い、ECサイトの普及や利用の増加、オークションサイトによる個人間取引の増加など宅配便の取扱い個数が急増し、物流業界が活性化する一方で、ドライバ不足や再配達などが問題になっています。

このような課題に対して、配送会社は、配送料の値上げや、コンビニでの荷物受取、置き配ポストの設置などさまざまな対策に取組んでいます。しかし、これらの対策は、“配送は一度で済ませたい”という「物を運ぶ」側から考えられているものです。



「運ばれる物」側から考える

「物を運ぶ」側ではなく、「運ばれる物」側から考えた発明があります。第一の客が高需要商品の返品先を配送センターではなく第二の客宛にする分散倉庫の発明(US20190362308、Google)、薬局が他の薬局から低需要医薬品を購入することを促進する仮想在庫の発明(US20190341139、Breckenridge Capital)です。



商品の需要と供給と、市場価格

市場経済では、商品の価格は需要と供給で決まります。これは、市場取引においては、価格の上下によって、消費者の需要量と供給者の供給量は自然に調節されることを意味します。イギリスの経済学者アダム・スミスは、これを価格の自動調節機能と呼びました(「神の“見えざる手”」)。

下表は、需要の高低を横軸、供給の多少を縦軸としたマトリクス表で需要と供給に基づく市場価格の関係を示したものです。需要量(=消費者がモノを買おうとする量)と供給量(=生産者がモノを売ろうとする量/小売店で販売している量)の関係によって、市場で成立する価格(市場価格)が決まります。旬の野菜が安く買えるのは、収穫時期に供給量が増え、消費者の需要を上回るからです。また、旅行代金も市場価格です。夏休みや年末年始には需要が高まるため、旅行代金が高くなります。

  需要が高い 需要が少ない
供給が多い - 供給者は売れ残ると困るので値下げする
⇒市場価格は下がる。
供給が少ない 消費者は競って商品を手に入れようとする
⇒市場価格は上がる。
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商品の属性と需要と、再分配

次に、市場における商品の価格ではなく、市場における商品の流通について考えます。ここでは、「運ぶ側」ではなく、「運ばれる物」側から荷物の再分配を考えてみます。なお、受取人不在時の“再配達”ではなく、荷物が到着した後に、何らかの理由での返品や融通し合う“再分配”であることに留意してください。



①一般的な商品で、需要が高い物

US20190362308(Google)は、第1の顧客が高需要商品の返品先を配送センターではなく第2の顧客宛にする分散倉庫の発明です。例えば、トースターオーブンが挙げられています。トースターオーブンは高い需要がありますが、多くの顧客はトースターオーブンがどれだけうまく機能するのかわからないため、購入は探索的で返品率が高くなります。

分散倉庫システム110は、第1の配達場所に近く同じ配達区域内にある第2の顧客の配達場所を、第1の顧客による返品用に指定された新しい配達場所として識別します。したがって、実店舗配送施設での製品の中間保管なしに、第2の顧客の場所へ商品配達を指示します(Fig.2、Fig.3)。

②特殊な商品で、需要が低い物

US20190341139(Breckenridge Capital)は、薬局が他の薬局から低需要医薬品を購入することを促進する仮想倉庫の発明です。医薬品は人間の命に関わる特別な性質を持っています。そのため、特定の医薬品が何百万人もの人々に影響を与えようと、わずか数百人に影響を与えようと、医薬品は患者の健康にとってなくてはならないものです。このような医薬品の特別な性質は、医薬品の効率的な販売、再販、流通において課題を抱えています。医薬品以外の小売ビジネスにおいては、需要の高い商品の在庫を維持し、需要の低い商品の在庫を控えることで効率を図ります。しかし、薬局ではこのような在庫ポリシーは受け入れられません。したがって、他のビジネスとは異なり、薬局はめったに購入しない製品を含む在庫を維持する理由があります。

このシステムは、薬局が在庫として保有している医薬品を統一された「仮想在庫」にまとめる方法です。このようなアプローチによって、各薬局は、需要の低い医薬品を購入する代わりに、必要なときに仮想在庫を調べて、他の薬局が追加販売可能な在庫があるかどうかを確認できます。これにより、使用されていない製品の有効期限が切れる問題や、そのような医薬品の廃棄処理の経済的影響が軽減されます(Fig.1)。

上記の2つのケースを整理したのが下表です。需要の高低を横軸、商品の属性を縦軸のマトリクスに表し、商品の需要と属性に基づく再分配の関係を示しています。商品の属性は、特殊性/一般性だけでなく、消費期限のあり/なし、配送の困難/容易など考えられますので、商品属性と需要の組合せによって、再分配の形態は異なってくると思われます。

  需要が高い 需要が少ない
特殊な商品 - 専門的なニーズがある
⇒直接配送することが可能
一般的な商品 他にも欲しい人が多数いる
⇒直接配送することが可能
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異なった視座から物事を考える

物流は、私たちの消費生活にとって、欠かすことのできないインフラになってきています。インターネットの普及やECサイトの急成長や利用の急増など、物流を取巻く状況が急激な変化に直面している中で、従来の同じ延長線上の考え方では、本質的な解決にはつながらない可能性があります。このようなときには、異なる視座で考えてみることで、問題解決のヒントにつながるかもしれません。視座をずらして物事を眺めたり考えたりすることで、今までとは違う気付きを得たり、思考を柔軟にしたりすることができます。また、自分とは違う立場の人や情報と接することも、視座をずらすことに有効です。