AIによる食品の美味しさの見える化


人間にとって、食べることは、生命を維持するだけでなく、生きる喜びにもなっています。人間が何を美味しいと思うかは、その人の感覚や好みによって異なり、絶対的な評価はありません。そのため、官能評価と呼ばれる手法が飲食品の風味の評価に用いられてきました。官能評価は熟練者の高い感度が期待される一方で、感覚疲労や個人の評価軸の違いなどがあるため、飲食品の風味の評価は、客観性が十分に担保されるものではありません。この発明は、生理応答データを利用して、食品の官能評価結果を客観的に支持するデータを導出する発明です(特開2019-184528、長谷川香料)。食品とAIの関わりについては、米国特許の注目発明でも取り上げています。



官能評価の裏付けとなる生理応答データ

従来から、ヒトが飲食品を嚥下する際に感じる感覚として、喉ごしなどの嚥下感覚を、生理応答の測定データに基づいて評価する方法が知られています。しかし、飲食品の「喉ごし」感覚だけを評価するのでは、飲食品の味や香りである「風味」との関係はわかりません。そこで、この発明は、人間の生理応答データと官能評価データとの相関を解析することにより、飲食品の風味の好ましさ度合を解析して、美味しさを予測しようとするものです。



嚥下時の表面筋電位の波形データ・咀嚼データ×官能評価

段階(A)

段階(B)

さらに、段階(B)では、



生理応答データを用いることで客観性を担保

この発明では、飲食品の 風味の好ましさの度合いを生理応答データに基づいて解析します。嚥下運動・咀嚼運動の変化に対応する、「嚥下時」の嚥下筋の表面筋電位の波形データは、無意識で生理応答することに起因するものです。このように、生理応答データに基づくデータと、官能評価との相関を解析することにより、食品の美味しさを正確かつ客観的に担保することができます。



AI×食品分野の広がり

さらに、特定の個人や集団に対して、嗜好性の高い飲食品の風味(味や香り)を客観的に支持するデータを導出することもできるでしょう。このようなデータを用いると、特定の個人や集団に対して、オーダーメイド的に嗜好性の高い飲食品や香料を提供することができるようになります。専門家による官能評価の結果とAIを結びつけることにより、食品のおいしさを人の感覚で分類・客観化し、再現性を高めることができます。また、特に高齢者の場合において、意思疎通が難しくなった場合でも、本人の好む風味の飲食品を含む食事を提供できれば、食べる意欲も向上し、健康状態にも良い影響を与える可能性があります。