仮想企業による仮想ワーカーの共有


ライフスタイルの変化や子育て・介護等により、特定の企業に所属せず、個人事業主やフリーランス、隙間時間に働く「ギグワーカー」が増えています。企業は業務ごとに適切な人材と契約し、個人は柔軟な働き方が可能となります。この発明は、仮想企業のタスクを含むワークフローを定義し、各タスクに適切な仮想資源ワーカーを割り当てる発明です(US2019/0279133、Toolots)。



フリーランス人口の増加

近年、フリーランスという働き方が認知され始めています。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の「フリーランス白書2018」によると、日本では1千万人以上がフリーランスで働いています。日本の労働者人口は約6千万人とされていますので、およそ6人に1人がフリーランサーとして働いていることになります。アメリカでは労働者人口の1/3がフリーランスで仕事をしているとされています。



企業から見た雇用の取引コスト

企業側から見た雇用と業務委託を考えてみます。企業は、特定の仕事をするために誰かと雇用契約や業務委託契約を結びます。すべての取引ごとに個別の業務契約を交渉・締結するのは労力が掛かります。雇用を「取引」として捉えた場合、そのような取引にはコストがかかります。標準化された商品の市場では取引コストは低く、明確に定義されたタスクを労働市場に提示し、請負者はそれを実行することで固定金額を受け取ります。しかし、企業活動を行うには単純なタスクだけでは不十分です。暗黙の命令または明示的命令によってタスクを指示する方が安価です。マーケティングや新商品企画や顧客開拓など、企業には、多様で変化する状況に応じて柔軟に行動する人材が必要です。そのため、企業はスポット契約の代わりに、固定された給与で、合意された限度まで、多様で変化する指示に従う長期雇用契約を従業員と締結します。これにより、取引コストが削減されます。



企業リソースの抽象化

複数の企業が同じプラットフォーム上で仮想企業リソース(人間の労働者、コンピュータ労働者)を共有することを可能にする仮想企業(VF)と仮想ワーカーの共有に関する発明が開示されています。これにより、企業リソースの抽象化が企業の管理およびスケーラビリティの効率化につながります。複数の企業間で共有できるリソースとして、会計、製品計画、製品情報、サプライチェーン管理、調達、出荷、在庫管理、流通、販売、マーケティング、製品保険、財務、人事管理、事業登録、商標出願、特許出願、資産の管理、または顧客サービスなどが挙げられています。

Fig.2は企業リソース管理を促進するためのシステムを示す概略ブロック図です。左側の最上層に企業リソース計画システム(ERP)210があり、その下に、データサービス層211とワーカー抽象化層212があり、最下層にワーカーが位置します。右側には、ERPにサービスを提供するサービスモジュールがあります。サービスモジュールには企業が持つ機能が含まれており、製造、サプライチェーン、製品、倉庫、ロジスティクス、マーケティング、販売、CRM、分析&BI(ビジネス インテリジェンス)、ソーシャルネットワークなどがあります。データサービス層211は、ERPがプロジェクトを作成および管理し、タスクを割り当てるのを支援します。



ワーカー抽象化

ワーカー抽象化とは聞きなれない言葉ですが、特定のワーカーに関連する機能情報を抽象化することを意味します。人間の労働者とコンピュータ労働者を機能のリストを含む機能マトリックスにマッピングすることによって、ワーカーの機能を微調整してコンテキスト化し、より高いレベルのコンテキスト化によりタスクを完了する効率を向上させます。実際に、企業は特定のコンテキスト知識を持つワーカーにタスクを割り当てることを好む場合があります。コンテキスト化された知識の例は、部門知識(人事、企業事項、販売、製品、顧客サービスなど)、プロジェクト種類の知識(実施するプロジェクトの種類に応じて分類)、クライアントの知識(クライアントの種類に応じて分類、または、タスクが関連する特定のクライアント)、役割の知識(役職または役割の種類など)があります。各ワーカーは、機能マトリックスによって特徴付けられるワーカープロファイルを有することになります(Fig.3、4)。



これからも雇用関係によらない働き方は増えていくと思われます。働き手にとっては、より真剣に仕事に向き合い効率を高め、キャリアを主体的に形成することができます。企業にとっても、従来型の固定した雇用体制では新しいことは生まれないという考え方が広がりつつあります。個人が会社に依存する状況は転換期にあります。会社の形も含めて、雇用制度や社会保障制度などを見直し、これからの働き方に合わせた形に変えていく必要があるのではないでしょうか。