名刺入れをセンシング手段とし、名刺情報をフル活用する


自社の商品やサービスを売り込もうとする際に、営業スタッフが最初に行うのは、潜在顧客を探すことです。日々の営業活動を通じて、過去に名刺交換した人、購入客や問合せ客、展示会やイベント出展した際に集めた名刺など、社内には様々な顧客情報が蓄積されています。これらの情報から、売り込みたい商品やサービスの特徴に応じて、関連する属性を抽出する必要があります。この発明は、名刺情報だけでなく、名刺の相手に関する付加情報を同時に取得することによって、名刺情報の活用を効率よくする発明です(WO2019-111962、株式会社オリィ研究所)。



顧客情報管理は営業の基本

営業活動において顧客情報の管理や活用は重要です。最近では「SFA」や「CRM」という言葉をよく聞きます。SFAやCRMも、営業のパフォーマンスの向上、顧客満足度の向上など、ビジネスに貢献しようとするものですが、それぞれに意味や目的が異なります。

SFAとは「Sales Force Automation」の略で、「営業活動の自動化」を意味します。SFAの目的は営業活動の効率化であり、案件情報や商談情報など見込み客や顧客との交渉情報を細かく入力することで、営業ノウハウを蓄積して営業候補客の抽出を支援します。そのため、SFAは「営業支援システム」とも呼ばれています。

一方、CRMは「Customer Relationship Management」の略で、「顧客関係管理」を意味します。CRMの目的はすべての顧客情報を管理することで、営業部門だけでなく開発部門や情報システム部門、マーケティング部門など、複数部門が顧客情報を確認しながら事業戦略を立てていくことです。CRMは「マーケティングや経営のためのシステム」と言えます。



営業がやりたいことをやるには手間が掛かる

どんなビジネスにおいても、営業を効率化して売り上げを上げたいというのは、共通の課題です。しかし、電話、訪問、イベントなど、それぞれにアプローチしたリストがバラバラに管理されていると、いつ、誰が、どんなアプローチをしたのかを確認するために、ものすごく手間が掛かってしまいます。また、名刺交換した後に、社内で適切な形式でデータ入力されていないと、せっかくの顧客情報として活用できず、宝の持ち腐れになってしまいます。営業スタッフは、相手先企業の会社概要や業績だけでなく、自社との過去の取引経緯や実績、窓口担当者の関心事項や共通接点など、いろいろな情報を見て情報武装していきます。「このお客様とは、どのような経緯で取引が始まったのか?」、「どのようなことに関心を持っているのか?」、「どのようなことを断られたか」など。これらを省略してお客様の所に行ってしまうと、単なる挨拶で終わってしまったり、同じ失敗を繰返したりしてしまいます。



名刺交換したら、すぐに名刺情報を取得する

ビジネスにおいて、初対面の人同士で名刺交換を行う慣習があります。多数の相手と名刺交換を行うと、後から名刺を見返した際に、どのような相手から名刺を受け取ったのかを思い出すことが難しい場合があります。このように、顧客情報活用の入口において顧客属性を適切に入力できないと、せっかく受け取った名刺情報を有効に活用することができなくなってしまいます。

この発明は、名刺入れに名刺情報を取得する機能を持たせ、名刺を名刺入れに収容する際に、名刺情報を取得すると同時に、名刺本人に関連する付随情報を取得することができる名刺管理システムの発明です。

図2(b)が名刺入れを開いた状態、図3が名刺入れの収容部の断面図です。ユーザは、自分自身の名刺を収容部103に収容しておきます。名刺交換の際に、ユーザは、最も外側の名刺C2を自分の名刺として取り出して相手に渡すとともに、相手から受け取った名刺を収容部103の最も内側に入れます。

収容部103から自身の名刺が1枚取り出されると同時に、収容部103に相手の名刺が1枚追加されます。つまり、収容部103は、自分の名刺と相手の名刺とで共用されるように構成されています。自分の名刺を取り出すのと引替えに、相手の名刺を追加するので、常に一定の枚数を維持することになり、読取部120と最も内側の名刺C1(相手の名刺)との間の距離が一定に保たれるため、画像が撮像される条件の変化を抑え、画像から文字情報を取得する精度を向上させることができます。



名刺の文字情報と付加情報を同時に取得し、共通点を見つける

図5の文字情報取得部212は、OCR(光学的文字認識)などの文字認識技術を用いて、名刺画像から文字情報を取得し取得時刻(登録時刻)とともに記憶します。文字情報は、名刺に記載された氏名、所属(法人名、団体名、学校名等)、電話番号及びメールアドレス等の個人情報を含み、個人情報に加えて経歴、SNS(ソーシャル・ネットワーキング·サービス)アドレスが名刺に記載されている場合には、これらの情報を文字情報として取得します。

さらに、文字情報と同時に付加情報を取得します(図7)。付加情報は、文字情報に関連する過去の履歴情報と、文字情報とユーザとの間の共通点を示す共通点情報を含みます。履歴情報は、過去に記憶された文字情報のうちの一部(例えば、所属又はメールアドレスのドメイン名)を含む過去の文字情報です。共通点情報は、文字情報に基づいて、名刺の相手の属性と名刺入れ100のユーザの属性(予め設定されている)との共通点を検出して取得します。共通点は、例えば学校や職業の経歴、趣味、居住地等を含みます。付加情報は、SNS等の外部システムから、名刺の相手の属性を取得することもあります。名刺にSNSの識別情報(アカウント名等)が記載されている場合には、そのSNS識別情報を用いてSNSを検索します。また、SNS識別情報が記載されていない場合は、文字情報に含まれる個人情報(例えば氏名及び所属)を用いてSNSを検索することによって、SNS上の名刺の提供者の属性を取得します。このように、名刺交換相手と同じ所属先で過去に取引経緯がある場合や、名刺交換相手との共通の趣味など、ユーザとの共通点を抽出することで、営業活動の促進につなげることができるようになります。



情報化・デジタル化が進んでいる現在においても、ビジネス慣習においては、お客様との対面でのやり取りや名刺交換など、アナログで行う営業活動の重要性は変わりません。また、今までも、名刺交換はアナログで行い、名刺情報の管理はデジタルで行うことは行われてきました。この発明は、名刺入れをセンシング手段として活用し、クラウドベースで過去の履歴情報やSNS情報と紐づけることで、名刺情報をより一層活用しやすくしています。このように、アナログの良さと、デジタルで出来ることの組合せは、他の様々な用途やシーンにおいても適用できるのではないでしょうか。