“データ・ドリブン”なスポーツ科学


スポーツ最大のイベント、オリンピック。念願の東京オリンピックの開催がいよいよ来年に迫ってきました。近年では、スポーツの世界においてもAIやVRなどの先端テクノロジーの活用が始まっています。選手のパフォーマンスデータの測定、チーム競技の戦術パターンのモデル化など、データに基づく活動管理や最適化を図る“データ・ドリブン”なスポーツ科学が注目されています。今月の注目発明は、スポーツ選手が行う運動の選択を視覚的・聴覚的にサポートするトレーニングシステムの発明です(US20190206278A1、ISTANBUL SEHIR UNIVERSITESI)。



スポーツ×テクノロジー

昨年のサッカーワールドカップで、ゴールラインすれすれでゴールキーパーがシュートをセーブしたシーンがありました。位置によっては、キーパーのファインセーブあるいはゴールラインを越えた得点、という際どいシーン。選手が混み入っていたり、副審の死角になっていたり、ボールスピードが速かったり、ゴールライン判定は難しいと言われています。得点になったかどうかは記憶が定かではありませんが、ここで「ゴールラインテクノロジー」が用いられていたことは強く印象に残っています。テクノロジーの進化によって「スポーツ×テクノロジー」の融合は大きな可能性を秘めています。ITを活用することで、スポーツが持つ新たな価値を創造し、ビジネス機会の創造・拡大や、社会課題の解決につなげることが期待されています。

平成27年に、スポーツを通じて「国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む」ことができる社会の実現を目指すことを目的として、スポーツ庁が設置されました。スポーツ庁は平成30年度に、新しい方法でスポーツの価値を高める取組みのひとつとして「スポーツビジネスイノベーション推進事業」を立ち上げ、2015年時点で5.5兆円とされるスポーツ市場の規模を、2025年までに15兆円まで引き上げるという目標を掲げました。

日本経済再生本部「日本再興戦略2016」 スポーツの成長産業化について
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/018_index/shiryo/attach/__icsFiles/afieldfile/2017/10/30/1397212_001.pdf

平成29年度「スポーツ産業の成長促進事業 ③スポーツ関連新事業創出支援事業」報告書
新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向(平成30年3月)
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/30/05/__icsFiles/afieldfile/2018/05/31/1405699.pdf


トレーニング = データ = モデル = トレーニング

この発明は、データを活用したスポーツ選手のトレーニングに関する発明です。フィールドにおける競技内容がカメラによって監視され、画像処理が施され、運動データおよび運動結果データが統計的モデリング手法により分析されます。これによって、各運動タイプおよび運動結果に相関関係を持つ支配的要因を導き出し、例示的な運動推定結果がユーザ機器に表示されることで、選手の動きをトレーニングします。

Fig.1はサッカー競技における例を示しています。

これによって、選手(510)は、トレーニング中の動きとして、どの動きが成功するか、動きの成功確率に関する情報を、ウェアラブル機器(200)によって視覚的・聴覚的に情報を得ることができます。したがって、選手は成功する可能性のある動きを実現するように誘導されます。



日本では、明治時代に外国人教師がスポーツを持ち込んだこともあり、学校を中心として「体育」が教育の一手段とされてきました。「体を鍛えることは精神を鍛えること」という精神論的な側面を持つ日本独特の体育教育は、体罰や過度な練習の強要などの弊害を引き起こしてきました。

スポーツ庁の設置は時代の変化を表していると言えるでしょう。スポーツには、身体運動を効果的に使って人生を豊かにする、身体機能を維持する・低下を防止するという、広い意味での人間の健康で文化的・社会的生活を向上させる力があります。スポーツテクノロジーは、競技をする選手だけでなく、競技を見る楽しみ(観衆の体験価値向上、スマートスタジアム)、スポーツを取り入れた周辺産業(スポーツツーリズムや健康促進経営など)へと広がる可能性を秘めています。オリンピックを契機として、スポーツによる人間の健康価値の向上と関連産業の進展が望まれます。