モビリティプラットフォームビジネス


2018年1月、世界最大の家電見本市「CES」で、トヨタ自動車の豊田章男社長は「トヨタをモビリティ・カンパニーに変革する」と宣言しました。特許情報においても、この宣言を裏付けるような発明がトヨタ自動車から現れ始めています。今回取り上げるのは、オンデマンド車両を用いた宿泊を伴う移動において、電力エネルギーの収支を考慮した運行管理システムに関する発明です(特開2019-117589、トヨタ自動車)。



Mobility – Mobile – Automobile

注目発明に入る前に、モビリティの意味を確認しておきたいと思います。モビリティは英語Mobilityが基になっている言葉ですので、Mobilityの意味を英英辞典で調べました(Oxford Dictionary & Thesaurus)。

Mobility (noun) ; The ability to move or be moved freely and easily.
Mobilityとは「自由に簡単に移動する能力」を意味します。

あわせて、Mobilityの形容詞形であるMobileの意味を調べました。

Mobile (adjective) ; Able to move or to be moved freely and easily
Mobile (noun) ; A mobile phone.

Mobileには形容詞と名詞があり、形容詞は「自由に簡単に移動することができる~」、名詞では「モバイルフォン(携帯電話)」を意味します。約30年前までは、電話は有線で固定の時代でしたが、無線で小型の電話機の登場によって、電話は自由に簡単に移動することができるようになったのです。

ここまでくると、Mobileの付いた単語Automobileも気になりますね。Automobileは自動車の意味です。語源によると、Automobileは19世紀後半に生まれた言葉で、自動を意味する「auto」と自由に簡単に移動する「mobile」の組合せとあります。T型フォードが誕生したのが19世紀後半ですから、自動車が一般に普及するようになって言葉が定着したと考えてもおかしくありません。

Mobility (noun) ; The ability to move or be moved freely and easily.
Mobile (adjective) ; Able to move or to be moved freely and easily
Mobile (noun) ; A mobile phone.
Automobile (noun) ; A car.

つまり、携帯電話も自動車も自由で簡単に移動できるという点では共通します。“モビリティ・カンパニー”とは、自動車というハードに拘らず、“自由で簡単に移動することができる価値を提供する会社”と捉えることができます。



MaaS(Mobility as a Service)

もう一つ、Mobility という言葉に関連してMaaSという言葉を聞いたことのある人も多いと思います。MaaSとはMobility as a Serviceの略で、直訳すると「サービスとしての移動」です。世界に先駆けてMaaSを導入したのは北欧フィンランドの首都ヘルシンキです。

例えば、急に東京から大阪に出張することになったとします。移動にあたっては、電車やバス、タクシー、飛行機または新幹線など複数の交通手段を使い、それぞれの交通機関に予約や支払いを行わなくてはなりません。このような時、スマートフォンからMaaSアプリを使えば、検索~予約~支払を一度に行うことができます。MaaSのコンセプトは、人々の移動を最適化するために様々な移動手段を活用し、利便性を高めるものです。

フィンランドの交通通信省(Ministry of Transport and Communications)の動画
https://www.youtube.com/embed/ZQieTU7_5xo

総務省 次世代の交通 MaaS
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02tsushin02_04000045.html

移動 × 宿泊 × エネルギー

この発明は複数利用者の要望に基づくオンデマンド車両の運行システムに関する発明です。特に、宿泊を前提としたオンデマンド車両の運行計画作成にあたり、宿泊時に必要な駐車場や宿泊型車両の電力や燃料などのエネルギーの収支を考慮して、最適な運行プランを作成します。

図1が全体図です。関わるのは、ユーザ端末50、車両40および車両端末41、駐車場管理センタ30、車両運行管理装置20です。それぞれの役割を見ていきましょう。

これによって、宿泊駐車場に充電設備や給電設備がない場合には、バッテリ充電量の低減を抑制する走行制御を行ったり、宿泊駐車場での駐車中に設定時間で車両のバッテリ充電量が0にならない運行プランを計画したりします。宿泊タイミングは料金に影響します。宿泊タイミングはユーザが移動する際に、乗車場所と降車場所との何れに近い駐車場で宿泊を行うかのタイミングのことです。乗車場所が郊外で降車場所が都心の場合、郊外の駐車場の方が都心の駐車場よりも安価なので、降車位置へ移動する前のタイミングで宿泊を選択すると料金を抑えることができます。




ハードの意味を考えてみよう

この発明から「サービスとしての移動」の概念は、交通機関を横断して人々の移動をシームレスにすることだけではないと分かるでしょう。自動車は移動する端末になり、そこから得た情報をプラットフォームとして、付加価値(すなわち、サービス)を提供するサービスが生まれつつあります。いま、モノづくりメーカは、ハード(端末)を提供する製造メーカと、ハードから得られる情報を活用したサービス企業と、どちらを目指すのか、岐路に立たされています。その時に、自社の商品(ハード)にはどのような意味があるのか、という視座で考えると、ヒントが見つかるかもしれません。