農作物の品質を出荷時期に最適化し、商機を高める


農作物の最適な鮮度を制御する発明です(特開2019-041601、ケーイーコーポレーション)。



ITと農業の関係

ITを用いた農業というと、植物工場やLED照明を用いた植物育成などが思い浮かびます。これは、農作物の生産を、モノづくりと同じように、生産工程を管理し一定の品質で生産するという考え方です。製造メーカーが、モノづくりで培った生産管理技術を、農作物に適用しようとしている試みがあります。しかし、RFIDで生育情報や観察記録を管理したり、クラウド連携で個体情報を参照したり、LED照明の設備を導入したり、植物工場への設備投資が膨大になります。

農作物は人工物と異なり、1個の生命体として生命を維持しています。農作物の生育環境等をコントロールして品質を高めるには、上述のように、そのための設備投資が必要です。それとは別に、収穫後の農作物に対して、呼吸をはじめとする様々な生理作用を促して生命を維持させながら、出荷時期に合わせて農作物を最適な品質状態に制御し、商機を高める工夫がなされています。



野菜は生きている

近年、消費者は新鮮な食品を求めています。青果物(野菜、果物)、魚介類、肉類等の生鮮食品の産地では、洗浄施設、低温保存施設などの鮮度保持施設が数多く導入されています。また、流通段階では、機能性フィルム等の利用等、鮮度保持対策が積極的に行われるようになりました。さらに、青果物を希望出荷時期に最適な鮮度にもってくることができれば、市場での商機に合わせて商品としての価値を最大限に高めることができる、というのがこの発明の着想ポイントです。



野菜の鮮度は、温度・湿度、ガス組成で決まる

青果物の鮮度を保持し、希望の出荷時期に最適な品質状態にするためには、「温度・湿度」と、「ガス組成」の観点からの検討が必要です。

温度・湿度

大部分の青果物は、低温で保存することで、呼吸を遅らせ、蒸散作用を抑制することができることから、効果的な鮮度保持手法として従来から用いられていました。さらに、葉菜類等、一部の蒸散作用が抑制されない種別については包装した上で保存したり、湿度を高めに設定したりする等の工夫を加えることも既に提案されています。

しかし、葉菜類にも様々なものがあり、結球性(キャベツなどの丸く固まった形状のもの)の方が、非結球性(ホウレンソウ、コマツナなどの葉が広がっている「菜っぱ」もの)より蒸散作用が抑制されます。また、果菜類は表面にクチクラ層※を持っていますが、キュウリやナスなどのような比較的生育期間の短い果菜類のクチクラ層は薄いため、クチクラ層を介しての蒸散が低温になっても活発に行われます。さらに、同じ種でも、全体のサイズが大きくなることで表面積が拡大すれば、蒸散が急速に進んでしまいます。

※ワックスとクチンの混合物によって作られる植物の外側のフィルム状の構造

ガス組成

従来からガス組成を調整することで、酸素濃度を低くし、二酸化炭素濃度を高くして呼吸を遅くして、農作物を鮮度保持させることが行われてきました。

呼吸をはじめとする代謝系は変動します。例えば、果実類では肥大期までは減少傾向にあった呼吸が、成熟期に入ると急激に増加傾向に転じます。エチレンの化学式はC2H4と極めて単純で、常温では気体ですが、この単純な物質が、青果物の老化・成熟に関与する植物ホルモンになっています。このように、果実類では成熟への転換期に呼吸量が増加しますが、それに伴ってエチレンの排出量も増大するため、老化・成熟が加速します。

一方、オゾンはその強い酸化力でエチレンを分解することができ、保存中に発生するカビを殺菌することもできます。しかも、オゾンはどのような食品にも制約なく使用でき、自然に消滅して残留しないため、殺菌後に洗浄等の必要がなく、人体に毒性のない低濃度で十分な殺菌効果が得られます。
エチレンを老化の観点からではなく、成熟のトリガーとして利用できます。例えば、果実類に対してエチレンを外から与えると、それが引き金となって内成エチレンが急激に増加し、成熟を早めることができます。

この発明では、「温度・湿度」、「ガス組成」を制御することで、青果物を希望出荷時期に合わせて最適な鮮度に移行させます。具体的には、保存する青果物の種別および大きさ、色具合等の特異内容と、保存温度及び湿度と、希望出荷時期を入力情報とし、温度と湿度を静的制御し、ガス組成を動的制御することで、青果物を保存した保存庫の内部環境を、温度・湿度・ガス組成の点から制御します。



目的に対して、どんな要素が関連するか

人工知能の用途を考える上で、達成したい事柄にたいして、どのような要素が関連するかを考えることは重要です。関連する要素は、コンピュータプログラムでは「パラメータ」と呼ばれます。パラメータとは、外から与える何らかの値であり結果に影響を与えるものです。今回の注目発明を例にとると、達成したい結果は、「出荷時に最適な鮮度に持ってくること」、外から与える値は「温度・湿度」と「ガス組成」です。このように、達成したい結果と、それに影響を与える値が見出せれば、後は人間の手を離れ人工知能の出番です。人工知能が学習しながら精度を高めていきます。

しかし、達成したい結果と、それに影響を与えるパラメータの関係を見出すことができるのは、今のところは人間にしかできません。従来の植物工場のような野菜の生育環境を管理するではなく、成育後の鮮度管理に目を付けたのは他にはない着眼点であり、野菜の鮮度管理に精通した人ならではの視点であり、人工知能を実際に適用する参考になります。




マンスリー特許情報では、人工知能を用いた用途の部隊的な日米特許情報を「ヘッドライン」で掲載しています。ヘッドラインには、1件の特許情報それぞれに、どのような内容なのか、どのようなデータを用いているか、を簡潔に記載してあります。ユニークな着眼点を見つける参考として、頭を柔軟にするヒントとして、ぜひご利用ください。