AIを用いた建設施工現場の効率化


人手不足の“最前線”ともいえる建設業界では、生産性を高めるためにAIを始めとしたIT化が急務です。しかし、整備された環境での製造業の生産現場とは異なり、建設業の現場では、現場ごとに異なる環境や天候、一品作りなど現場対応が求められます。今月の注目発明で取り上げるのは、施工現場における効率的な作業を支援するための作業支援システムの発明です(特開2018-197998、大林組)。



建設業界は生産性向上が急務

建設技能労働者約334万人(2015年時点)のうち、約3分の1は55歳以上です。今後10年間で、100万人規模で高齢化による大量離職が想定されています。建設業界では、今後想定される128万人の労働者不足を補うために、若手中心に90万人の雇用確保と、生産性向上による省人化35万人の目標を掲げています(日本建設業連合会, 2016)。
日本政府ではこうした事態を視野に入れ、2016年に「i-Constrution」と名付けて、2025年までに建設業の生産性を20%引き上げる目標を掲げ、活動を推進しています(国土交通省 i-Constrution推進コンソーシアム)。



AIを用いた建設施工現場の効率化

この発明は、建設施工現場の撮像画像を用いて、施工に必要な作業量や作業時間、コスト、材料や資材の種類や量、必要な機器の種類や大きさ等を、現場の状況や作業の進捗状況に合わせて予測することができるものです。
このシステムは、現場担当者が用いるユーザー端末(10)と、各種の資材情報や作業情報を記憶し制御する管理サーバー(20)から構成されています。現場担当者がユーザー端末で施行が必要な領域を撮影し、撮影した画像を管理サーバーに送ります。管理サーバーは、端末から送られた画像と予め記録されている識別モデルデータに基づいて、資材予測や作業見積や作業支援を行います。



建物の作業面積に応じて見積概算金額を算出

建物壁面の外壁タイルの補修作業の見積概算金額を算出する場合を取り上げます。現場担当者はユーザー端末を用いて、既存建物の補修対象領域(壁面)を撮影し、管理サーバーに送信します。管理サーバーは、撮影画像の画像歪を修正するための歪パターンで画像を処理した後、各領域の資材を予測する予測処理を行います。画像の分割粗度に応じて、予め機械学習した識別モデルデータを用いて、撮影画像に含まれる資材を予測します。分割粗度は、撮影画像を分割するグリッドのサイズのことであり、対象領域の大きさによって分割粗度を適宜変更することで、面積算出や資材の認識精度を向上させることができます。その他、資材種別、資材コード、資材単価の概算が算出されます。さらに、補修対象の資材についての作業種別、作業単価が算出されます(例えば、タイルの場合には、「タイル貼り替え」の作業種別と作業単価)。これらの流れで、外壁補修に必要な資材や作業、概算見積金額を算出します。
なお、資材が劣化している場合には、劣化状況を資材の外部状態(変色、割れ、汚れ等)や、資材の内部状態(タイル壁面の汚れ状態によって、所定の波長光の反射率や救出理うの変化を利用)によって、資材状態を評価し、作業範囲を特定することもできます。



出来形マップの作成

主に建物の室内の施工現場において、出来形を確認する必要がある各工程において、出来形マップの作成支援する例を取り上げます。この場合、ユーザー端末のカメラには、視野範囲が360度の全天球画像の撮影が可能な全天球カメラを用います。まず、管理サーバーからユーザー端末に、出来形を確認する部屋や撮影範囲の指示が出ます。それを受けて、現場担当者は、部屋(60)の幅(L11)、奥行き(L12)、高さ(L13)をユーザー端末に入力します。その後、現場担当者はカメラを用いて部屋内を撮影した全天球撮影画像を生成し、管理サーバーに送信します。そして、管理サーバーは分割粗度に応じて推定モデルの選定処理を行い、撮影画像(600)において、指定された分割粗度で複数のグリッド(601)を生成します。その後、全天球撮影画像に含まれるグリッドごとに資材を予測します。 全天球画像を撮影可能なカメラでない場合でも、通常のカメラを回転させて撮影画像を取得し、撮影画像を繋ぎあわせたパノラマ画像を生成して用いることもできます。



課題は革新へのドライブ

建設現場の人手不足は深刻です。しかし、課題があるからこそ、それを乗り越えるための工夫が生まれます。日本は世界有数のICT技術を持っており、生産性向上のためのイノベーションの絶好の機会と言えるでしょう。特許情報に表れる課題解決のための工夫は、革新に取り組む技術者の糧となります。

(参考) 日本建設業連合会「技能労働者不足」に対する考え方(2016.10.18) 国土交通省 i-Constrution推進コンソーシアム ホームページ