働き方改革と人工知能


2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されることになりました。この背景には、少子高齢化による労働人口の減少、長時間勤務と過労死問題、労働生産性の低さなどが指摘されています。今月の注目発明は、これからの働き方を考えるにあたって問題提起となる発明(特開2019-070913、野村総合研究所)を取り上げます。



働き方改革とは

日本の人口は減少局面を迎えています。人口減少は労働人口の減少を意味し、労働力不足へとつながっていきます。この労働力不足を解消させるための政策が「働き方改革」です。「働き方改革」は政府の重要政策のひとつに位置づけられており、多様な働き方が可能な社会を目指そうというものです。働き方改革は三つの柱があります。



労働時間の使い方や配分・傾向等を分析

この発明は、スケジュール情報に入力された情報を、工知能を用いて仕分けすることによって、労働時間の使い方や配分・傾向等を分析した推定スケジュール情報として再構築し、その内容を一目で認識・把握可能なダッシュボードに可視化するものです。働き方改革の一番目の柱である「長時間労働の是正」に対応するものです。

図を見ると理解しやすいです。図2は全体フローです。個人のスケジュール情報が所定の形式で出力され、所定の形式データは機械学習によって学習・分類され(図4)、入退館データや場所情報と照合され、その結果、個人の行動がダッシュボードに出力されます(図10、図11)。発明の効果には、「可視化された情報に基づいて、労働時間や労働状態の実体の把握と、個人および職場全体の生産性向上や働き方改革などを実現することができるようになる」と記載されています。



管理と監視

ここからは問題提起です。この発明は、一見、合理的なように見えます。しかし、従業員の労働状況を常時把握することは、管理ではなく監視です。ダッシュボードで見える化されて、他者と比較されることだけで生産性が上がるのかと疑問が生じます。この注目発明の中で、製造業における人工知能の活用を何度か取り上げていますが、機械のセンサ情報に基づいて故障の予兆や異常を診断するなど、機械と人工知能は相性が良いです。IoTは「物のインターネット」を表しますが、「人のインターネット」では必ずしもありません。人は意思を持つ生き物であり、同じ条件・能力であっても人が違えば結果が異なったり、同じ人物であっても環境や精神状態によって結果が異なったりするからです。



向上させるのは、生産性ではなくモチベーション

自主的に取り組む知的作業と、毎日同じ作業を繰り返すルーチン作業では、どちらに喜びを感じますか?多くの人は前者の方が喜びを感じると言われています。ただし、人それぞれ、得手不得手が違いますし、経験の有無によっても挑戦意欲は異なるでしょう。このように、個人差、属性による違い、業種や経験による違い等、多様な要因を人工知能が解析することで、働く人のモチベーションを高めるような工夫ができるのではないでしょうか。モチベーションが高まれば生産性も上がる、というポジティブな考え方です。



人の情報

ここで、人の情報を人工知能がどのように扱っているのかが参考になります。例えば、インターネットショッピングにおいて、ユーザーの属性や好みを学習して次の商品やサービスを提案するマーケティング手法が活発です。また、生活習慣病を予防するために、次の行動を促すメッセージや目標達成時のポイント付与など、個人の意識や行動変容を促す工夫があります。一方で、メンタル不調や過労死の原因となる限度を超えた労働につながる予兆を人工知能がキャッチする、単純作業が一定時間継続した場合はアラームを出すなど、他の市場でも、人間がポジティブに活動するための工夫は共通して参考になります。人に関する情報は、マンスリー特許情報のヘッドラインで確認することができます。しかし、市場をまたがっているので、人の情報を知りたい方は、ネオテクノロジーにご相談ください。