二段方式で種々の欠陥を識別する


様々な分野で、製品の欠陥を検出するために人工知能を活用する例が増えてきています。この発明は、特定の種類の欠陥に限定されずに、種々の欠陥の識別を行う欠陥検査方法の発明です(特開2019-027826、横浜ゴム)。



特定の欠陥を識別するだけでは、人間の負担は減らない

近年、製造現場では、検査員の負担軽減のために、製品の内面・外面をカメラ等で撮像して、画像処理によって特徴抽出を行うなど、検査作業の自動化が進められています。例えば、タイヤの欠陥検査において、タイヤ外面のトレッド(タイヤ接地面)表面上の欠陥の有無を判定する場合、もともとタイヤ外面にはトレッドパターンがあるため、欠陥検出がやりづらいです。そこで、画像処理を用いてトレッドパターンを除去して外面特徴抽出を行うことがあります。また、タイヤ内面を対象とした欠陥検査では、LED照明とカメラを用い、照明環境と画像処理システムを組み合わせることによって、タイヤ内面に存在する周期的パターンの模様を認識して除外し、欠陥を検出する手法が提案されています。

しかし、このような欠陥判定においては、画像中の背景模様や特定の種類の欠陥に応じて、一品一様に対応させた欠陥識別アルゴリズムを作成し、特定の種類の欠陥を精度よく識別することはできますが、種々の欠陥を識別することは難しく、また、擬似欠陥(欠陥に類似するが、規定寸法を満たさない等の理由から欠陥とは判断されない欠陥)を識別することは難しく、人間の検査員の負担はあまり軽減されません。



少数の欠陥画像から、学習用データを効率よく生成する

この発明は、特定の種類の欠陥に限定されずに、種々の欠陥の識別を行う欠陥検査方法の発明です。図1の識別器38の学習のために、検査対象タイヤとは別のタイヤの、欠陥の像を含んだ欠陥画像、および、欠陥の像の無い無欠陥画像を取得します。欠陥の像がない画像、欠陥の像に類似するが欠陥の像として分類されない疑似欠陥の像を有する画像、欠陥の像を有する画像です。この三種類の画像が、学習用画像となる切り出し欠陥画像や、切り出し検査画像として生成されます。

第1処理部32では、欠陥画像から、欠陥画像中の欠陥の像が画像中の異なる位置に来るように切り出し領域を変更して、複数の切り出し画像を生成します。これは、識別器38が、欠陥の像が画像中の所定の位置にあると学習することを防止するためです。

図8(a)~(d)は、切り出し欠陥画像の例です。図8(a)は、欠陥画像50にある欠陥の像52が、切り出し欠陥画像の中心画素位置になるように、切り出し領域54を配置した例です。図8(b)、(c)は、欠陥の像52が、切り出し欠陥画像の右下の位置になるように、図8(a)と比べて切り出し領域54を左上側に移動させた例です。欠陥の像52の位置は、図8(d)のように、切り出し欠陥画像54の中心画素位置から上下左右に移動した切り出し欠陥画像を作ることができます。つまり、基準距離の設定または所定の距離と、スライド数とを調整することにより、切り出した欠陥画像の数を増やすことができます。例えば、欠陥像内に10個の欠陥の像がある場合、これを5画素数に相当する基準距離の1倍、2倍、3倍・・・、8倍の距離のそれぞれを所定の距離とすることで、合計2890個の切り出し欠陥画像を作成することができます。これによって、発生頻度が低く欠陥の総数が少ない場合でも、学習用データを効率よく増やすことができます。



二段方式で欠陥識別の精度を高める

例えば、タイヤの内面には、背景模様の表面凹凸(インナーライナーゴムに形成された、加硫工程で生タイヤの内側から押し付けるブラダーの凹凸模様)以外に、欠陥とは分類されないが、凹凸形状を有する擬似欠陥が存在します。この擬似欠陥は、欠陥の像として識別されないようにする必要があります。そこで、識別器38を二段方式で用いる欠陥識別が工夫されています(図10)。ここでは、三種類の学習用画像(擬似欠陥の像はあるが欠陥の像はない学習用画像、擬似欠陥の像も欠陥の像もない学習用画像、欠陥の像がある学習用画像)を、スライド数を設定して切り出し画像を生成することにより10万枚を用意した例が示されています。



一段方式

・欠陥なし(擬似欠陥の像あるが欠陥の像はない/擬似欠陥の像も欠陥の像もない)
・欠陥あり(欠陥の像あり)

二段方式

第1識別器
・欠陥候補なし(擬似欠陥の像も欠陥の像もない)
・欠陥候補あり(擬似欠陥の像はあるが欠陥の像はない/欠陥の像がある)
第2識別器
・欠陥なし(擬似欠陥の像はあるが欠陥の像はない)
・欠陥あり(欠陥の像がある)

一段方式の識別器による欠陥検出を検出率1、二段方式の識別器による欠陥検出を検出率2とすると、検出率2は検出率1よりもさらに14%上昇しました。これによって、特定の種類に限定されない欠陥の像を効率よく識別することが可能になります。また、タイヤのように、内面に形成される凹凸模様があっても、欠陥の有無を精度よく識別することができ、欠陥と擬似欠陥も識別できるようになります。




近年では、特定種類の識別を行う人工知能は当たり前になりつつあり、この発明のように、さらに複雑な状況において、人間が対応するのと同じようなレベルで、人工知能が識別できるようにすることが取り組まれています。ただし、ルール(例えば、欠陥と擬似欠陥の区別)を作るのは人間です。人間が無意識に認識している認知機能を、ルールに落とし込むのは人間にしかできないことです。人工知能の研究と合わせて、人間の認知機能の研究も、ますます重要になると思われます。