コラム
コラム一覧へ戻る
中島隆 連載第9回
続・新発想養成講座 特許情報から研究開発のヒントを!
【第9回】 レメルソン特許から学ぶ


 わが国が高品質な売れるモノづくりに努力している間に、アメリカは流通、情報、サービスなどの高い付加価値を求め、知恵による統治力を先取りする工夫をしているかのように見える。その氷山の一角がデファクトスタンダードやプロパテントにあらわれている。金持ちアメリカが考え、技術屋日本が競い合って造るという構造は、これからも変わらないのだろうか。

 図1には、最近4年間に成立した米国特許トップ5のランキングを示す。IBMはトップを独走し、1998年には前年比54%増、年間2,657件でダントツの強さを示している。トップ10ランキングになるとわが国の企業が6社も入ってくる。

 図2には、1998年の米国特許の国別シェアを示す。米国特許全体が前年比31.7%もの増加を示しており、ここ数年は数%台の増加であったので、1998年の伸びは注目に値する。中でも、日本企業のシェアは20%にもなる。ヨーロッパのシェアが低く見えるが、フィリップスのように米国法人が出願している例も多いので注意が必要である。

 このように、米国で生まれる特許は1年間に約16万件だが、比較すれば、わが国では年間で約36万件もの発明が国内出願されている。国内には年間数千件も出願する企業は珍しくない。だが、本当に価値のある知的財産を倍以上も生み出しているのだろうか。モノづくりと創造的知恵づくりのバランスの時代に突入するいま、発明を生産する技術者が研究してみるべき課題である。

 今回から数回、創造開発への挑戦の具体例として、米国特許の強さをいろいろな角度から研究してみよう。
中島隆連載 第9回 図1 図2
サブマリンと呼ばれるレメルソン特許
 「走査して得るイメージフィールドから、決められた一部分の位置や場所を測ることを目的にした自動走査と制御の装置である」で始まる有名な米国特許がある。レメルソン特許は、最近もTVなどでサブマリン特許として取り上げられた。

 日本やヨーロッパでは、出願された発明の内容は一年半の間は秘密にされ、それを過ぎると特許庁から公開される。だから、公開公報を調べていれば、どのような発明を誰が出願したかは、特許になるかどうかは別として、誰でも知ることができ、不意打ちを食らう心配はない。しかも、発明には人の寿命と同じように、出願から20年間の寿命があると決めている。20年も経てば最新技術も陳腐化すると考え、その後は独占権を認めない。これが世界大半の共通ルールである。

 しかし米国は、この公開制度を採用せず、審査をパスした特許だけを米国特許として発表する。審査中のものや、拒絶されたものは公表しないので、誰がどんな発明を出願したかは判らない。しかも、1995年までは特許の寿命を発行日から17年間としていた。そこで、知恵者が米国特許制度を研究し、補正に似た継続出願を繰り返せば、何十年でも敵に姿を見られることなく海中に潜航させておくことができ、突然、海面に姿をあらわす潜水艦のように、金のブタが太った頃合いを見計らって特許権を行使することもできる。サブマリン特許と呼ばれるゆえんだ。

 レメルソン特許のルーツとなる出願は1954年12月の出願番号477,467である。レメルソンは、この出願と別な出願を組み合わせて継続出願制度や分割出願制度を利用し、米国特許4,118,730を1978年10月に取得する。この間の潜航期間は、何と24年にもなる。その後、上記の出願477,467などを元に、いろいろな観点に発明を展開し、他に13件もの米国特許を次々と取得する。そして、これらのネットワーク状に入り組んだ米国特許をライセンシングビジネスの道具にしようとする(図3)。
中島隆連載 第9回 図3
レメルソン特許にみる発明の展開
 発明家レメルソンは、上記のように、米国特許商標庁の審査に係属している中で取り得る手続きを活用し、精緻で強力な米国特許のネットワークを構築した。ここでは、レメルソン特許を厄介な米国のサブマリン特許として権利面側から批判的にとらえるのではなく、ある発明が生まれた場合、その概念を観点を変えて多角的に展開する格好な具体例としてとらえてみたい。

 技術者がアイデアを思いついたら、いったん、そのアイデアを突き放し、覚めた目で観点を変えてアイデアを見直し、リファインしておくことは、大変に大事な作業である。強い特許にもできるし、モノを多角的に見るクセもつく。見方を広げておくことは、創造性を鍛え、アイデアを出願発明にまで育てる上でも重要である。観点を見直して、発明を広げて行く様子がレメルソンの例から浮かび上がれば、技術者が発明を展開してゆく場合にも、大いに参考になるだろう。

初期の発明概念(USP4,118,730)
 画像信号を磁気テープに記録し、ビデオやテレビに再生させることは、当時すでに知られていた。静止画を得ることや、ビデオ信号のパルスを用いて米粒などの粒数をカウントすることなども、当時の技術で可能であったようである。しかし、画像のデジタイズとなると、位置を割り出したり、特定の寸法を計るという技術は未開発であったようである。レメルソンは、この点に着目し、ビームスキャンニングによって画像を分析し、コンピュータで処理する自動装置を発明した。

 図4に示す米国特許は、1954年に出願された元の発明を修正し、1972年に最終的な継続出願を行って1978年に特許を取得したスキャンニング装置とその方法に関する特許である。

 この発明には、図5に示すように磁気テープ記録や真空管回路が図示されており、1954年頃の技術水準を窺わせる。そして、特許明細書には寸法の比較や、標準信号とビデオピクチャ信号を比較することなどの発明内容が事細かに記載されている。図6には、この特許明細書に盛り込まれたベルトコンベアを用いた自動品質管理への展開例を示す。この特許では、23のクレーム(「特許請求の範囲」に相当する。以下、cl.と省略)により、装置、方法、システムと観点を種々に変え、多観点から権利主張を展開してゆくのである。
中島隆連載 第9回 図4 図5 図6
USP4,984,073からUSP4,969,038への展開
 先の米国特許4,118,730では、例えば、「装置」の観点から基本的な着想を広げ、自動検査装置や自動測定装置に育てるのである。イメージフィールド中で選んだ像の位置や場所を測定する自動検査装置(cl.1)、比較することでイメージの一部分の特徴を測定する装置(cl.2)、エレクトロオプティクス素子を用いた検査装置(cl.3)、ビデオ信号を用いた表面検査装置(cl.6)、コンベア搬送を備えた自動スキャンニング装置(cl.7)、電子ビームを使う表面欠陥検出装置(cl.10)、ビデオ信号を比較する自動計測装置(cl.11)、時間変化信号のアナライズ装置(cl.17)、位置決め移動手段を持つ自動検査装置(cl.19)などに権利を展開する。

 また、イメージフィールドの比較や時間変化などの信号処理とシステムを「方法」の観点から広げ、イメージフィールドの検査方法(cl.13)、時間変化するイメージフィールドの検査方法(cl.16)などに権利を展開する。

 この特許を出発点をとして、図7に示す米国特許4,984,073(1986年継続出願)では、複数のディスクリートな画像形状を判別する方法や選択したイメージを見分ける方法、画像検出と組み合わせてデジタル信号でモータを作動させるシステムなどに発展させる。そして、この特許を元にして、4つの新たな特許の流れを築いてゆくのである。

 さらに、図8に示す米国特許4,969,038(1989年継続出願)では、エレクトロオプティカルに走査された情報とメモリに記録された情報を比較してコントロール信号を出す方法などに発展させ、この特許から、さらに、3つの別な特許を生み出すのである。
中島隆連載 第9回 図7
中島隆連載 第9回 図8
レメルソン特許には100以上に展開したクレームがある
 米国には、出願の前後ではなく発明の前後関係を競う先発明のルールや、周辺限定クレームなど、発明者の保護に手厚いいろいろな工夫が特許制度に盛り込まれている。世界に冠たるアメリカの産業活力は、実は、このような技術のオリジナリティを貴ぶ優れた特許制度が支えているということもできる。次号では、その片鱗ともいえる100以上のクレーム例を取り上げ、ある発明をどのような観点から100以上に展開するのか、実例から発想の展開を研究してみたい。

●電子技術1999年7月号掲載
コラム一覧へ戻る


 | ページの先頭 | R&D支援 | 特許レポート | 特許調査 | コラム | 会社案内 | お問合わせ | サイトマップ | ホーム | 
本サーバ上のコンテンツ(情報・資料・画像・音声等)の無断転載を禁止します。
All Rights Reserved, Copyright(c) NeoTechnology,Inc.1985-2005